客単価4356円」女店主が営むラーメン店の秘訣住所非公開・完全予約制なのに繁盛のワケ23/10/20 10:00井手隊長様記事抜粋<
ラーメン業界の「1000円の壁」問題。お店側もお客側もラーメン1杯1000円は高いと感じるという心理的な問題だ。
以前から言われてきた問題だが、このところの原材料の高騰や水道光熱費の値上げの問題からいよいよ「1000円の壁」による閉店や倒産のニュースが多くなってきた。東京商工リサーチの発表によると、2023年1~8月のラーメン店の倒産(負債1000万円以上)が28件(前年同期比250.0%増)に達し、前年同期の3.5倍と大幅に増えている。
その中で「1000円の壁」に影響されない戦い方で営業するお店も出てきている。
「完全予約制」、住宅街でひっそりと営業する「純麦」
横須賀線・西大井駅から徒歩数分。品川区のとある住宅街で、ひっそりと営業するお店がある。「純麦」だ。2023年4月にオープンしたお店だが、なんと「住所非公開・完全予約制」である。
店主の矢嶋純さんは名店「麺処 ほん田」で修業ののち、ミシュランガイド東京のビブグルマンにも選ばれた人気店「Homemade Ramen 麦苗」の女将として有名になった女性ラーメン職人。そんな有名ラーメン店主が開いた今までにない形のお店として話題になっている。
事前に予約をしておき、指定の日時に店に行く。メニューは「純麦御膳」の1つのみだ。値段は4356円(税込み)。

まずは前菜だ。この日はゴマカンパチ、コハダ、無農薬ケール、ラーメンのダシの茶碗蒸し、筋子とクリームチーズが大きな皿にきれいに並ぶ。主役のラーメンが肉、油、炭水化物がメインなので、前菜は野菜と魚中心のラインナップになっている。

前菜を食べている間に矢嶋さんがゆったりとラーメンを作る。自家製麺をひと玉ずつ丁寧に手もみしゆで上げる。

出汁の分厚い清湯スープにまろやかな醤油ダレが合わさり、太めの手打ち麺がスープをよく持ち上げる。大ぶりのチャーシューとワンタンはもはやご馳走だ。
ぜいたくなご飯やデザートをゆったりと楽しむ

ご飯は鍋炊きでとても艶やか。上にぜいたくに牛肉が載る。ラーメンのスープと共に楽しむととても美味しい。

食事の後にはデザートとしてかき氷が出てきた。イチジクのシロップがぜいたくにかかった一品だ。ゆったりと1時間かけて純麦御膳を楽しんだ。
人気店出身の矢嶋さんが、なぜ「住所非公開・完全予約制」のお店を作ったのか。
「閑静な住宅街の中にお店を作るということで、店の前に行列を作ることは難しいだろうなと思いました。そうなると“記帳制”にするか“予約制”にするしかないのですが、記帳制の場合は待っていただく間に周りに時間をつぶす場所があることが条件になってきます。
ここは駅から遠いですし住宅街なので、記帳制は難しく、結果、予約制にするしかなかったという事情があります」(矢嶋さん)
過去の経験から「コースにする」アイデアが湧いた
予約制とはいえラーメンだけでやっていく場合は1日何十杯分も予約を取らなければならない。ラーメンだけだと単価を上げるにも限界があり、全体の売り上げのことを考えると杯数を稼がなければならないからだ。
ここで矢嶋さんが思い出したのが、以前やっていた「雲のきれま」というお店での経験だ。このお店ではラーメンとかき氷を提供していたのだが、2品ともレギュラーサイズで注文するお客さんが多く、 しっかりとした客単価で営業することができていた。これを応用し、前菜やご飯、デザートも含めたコースにしたらいいのではないかというアイデアが湧いてきた。
「製麺も1人でやっているのですが、100玉分の製麺をするのは女性の私にはそもそも体力的に無理だったんです。今やっている30玉ぐらいが限界かなと感じています。量が作れない以上、ラーメン一本でやることは難しく、結果このスタイルになるべくしてなったのかなと思います」(矢嶋さん)
お客さんがしっかり集まって、スタッフもいて、行列が作れる場所であれば、ラーメン一本に絞って席を回転させていくほうが儲かるかもしれないが、現実的にできることを考えるとこのスタイルがベストという決断になった。
また、「中華蕎麦 とみ田」や「らぁ麺 飯田商店」など、予約制のお店もだんだんと出てきているし、完全予約制でコースで食べてもらうラーメン店があってもいいのでは……という仮説もあった。
営業スタイルも、結果的に独自色を貫いている。だいたい営業日は週3日、1日3回転で15人が来店する。アルバイトがいる日は席数を増やして、1日24人程度の予約を受けている。
ほとんどのお客が来店時に次の予約を入れていくので、ネットでの予約可能の数が少なく、すでに予約困難店となっている。ほとんどがリピーターだという。
1時間ゆったりと、食事と会話を楽しむラーメン屋さん
「1日の客数とメニューが決まっているので、仕込みに無駄がなくロスもまったく出ないというメリットがあります。
もともとラーメン屋さんがやりたくて始めましたが、価格4356円と高いのでラーメン屋の客層とはまったく違います。美食家の方や料理の食べ歩きを趣味にされている方が多いですね」(矢嶋さん)
一時期ラーメンのみの営業やったこともあったが、通常に比べて満足感を与えられていないのではないかという不安に駆られたという。1時間ゆったりと食事と会話を楽しみ、満足して帰られるお客さんの顔を見ると、このスタイルでよかったと感じるそうだ。
「既存のラーメン屋さんが原材料高騰などで経営圧迫されているなら、このスタイルを考えてみてもいいかなと思います。それから女性店主が1人でできるお店の形でもあるので、新たなラーメン店のあり方として見せていければいいかなと思います。
住所非公開ということもあり、グルメサイトやGoogleの口コミを見て一喜一憂することもないので、メンタル的にもよかったかなと思っています」(矢嶋さん)
「純麦」は価格問題に苦しむラーメン業界に1つのヒントを示してくれている。
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