原価率というのは、簡単に言えば仕入れ原価を売上高で割り、100を掛けた数字。例えば800円(税別)のラーメンを原価率30%におさめるには仕入れ金額を240円にしなくてはならない。
中学時代からボクシングをやっていて、23歳の頃からTBS「ガチンコ!」の人気コーナー「ガチンコファイトクラブ」に出演していた。アマチュアのボクサーをデビューさせるという企画で、小松崎さんのデビュー戦の放送は視聴率25%を記録した。その後、結婚し自動車の仕事をしていたが、30歳で離婚する。
38歳で上京し、ボクシングのトレーナーの仕事を始めた。ジムのあった五反田でよくラーメンを食べに行っていた。ラーメンを食べていると、自分でもラーメンが作れるのではないかと思い始めた。
家で試しにラーメンを作って、ジムの教え子に食べさせてみると好評で、だんだんと美味しいラーメンが作れるようになってきた。
このままトレーナーの仕事をやっていても、自分でジムを経営するぐらいでないと先はないと思い、心機一転、ラーメン店をオープンすることにした。
王子の小さな店でスタート、2店目で百名店に
東京・王子の住宅街にある5.5坪の小さなお店を借り、「ざ銀ざ」というお店を始めた。お金がなくて看板をつけられず、赤いのれんを出すだけのお店だった。
レギュラーメニューがなく、思いつきでいろんなラーメンを作って一杯500円で提供していた。Twitter(現X)のアカウントもなく、臨時休業も多いお店だったが、口コミだけでお客さんが増えていき、多いときはランチで70杯出ることもあったという。
ネットへの書き込みもほとんど見ることがなく、常連客になぜSNSにアップしないのかを聞くと「宣伝するとお店が混んで入れなくなるから」と言われた。
小松崎さんはもっと広い物件を借り、看板をつけてお店をやったらさらにお客さんが増えるだろうと考え、移転を決意する。「ガチンコファイトクラブ」時代にジムのあった板橋のときわ台に一軒の物件が見つかる。これは運命だと思い、2018年に「soupmen」をオープンした。
鶏醤油ラーメンを提供し、価格は600円だった。オープン当初から30人ぐらい並ぶ人気店になり、2年目で「食べログ百名店」に選ばれた。
「食べログの点数は3.93点まで上がり、看板をつけると違うなぁと思ったものです(笑)。
線路沿いで場所も良かったので、いろんなところからお客さんが集まりました。週末は40~50人の行列になり、そのうち苦情が出るようになってしまいました」(小松崎さん)
予約が10秒で埋まり、「広い店に戻そう」
その後、2022年、中野坂上で「むかん」をオープン。5席のみの小さなお店で、「完全予約制」という珍しい営業形態をとる。当時、予約制は「中華蕎麦 とみ田」「らぁ麺 飯田商店」など一部のお店でしか採用されていなかったのでまだ画期的だった。
1日20人限定で、「soupmen」とはイメージを一変し、好きなことを細々とやりたいと思って始めたが、実際はそうはいかなかった。
「『soupmen』で3時間並んだ人がお店に入ってきた時の顔が怖くて、これ以上並ばせられないと思って始めた予約制でしたが、予約は瞬殺で、全然予約が取れないとネットにたくさん書き込まれることになりました。
その後従業員を雇って一日80杯まで増やしましたが、それでも10秒で予約が終わってしまう状態になりました。
お店には行列はできませんが、SNSやDMでさまざまなご意見をいただくようになってしまいました。こうして、また広いお店に戻さないといけない事態になりました」(小松崎さん)その後、2号店「中華蕎麦 無冠」を五反田に作り、ここは弟子に譲ってのれん分け店となる。
さらに、中野坂上のお店を休業し、初台に移って予約制をやめて営業を始めたが、ここも行列問題で半年でクレームが数回にわたって出るようになってしまった。
そして、「無冠 阿佐ヶ谷」は誕生した
ここもうまくいかず、今年7月、阿佐ヶ谷に移転し、「無冠 阿佐ヶ谷」をオープンすることになる。ここでも行列にクレームが来たが、並び方をなんとか工夫し、営業を続けられることになった。看板メニューの「牡蠣塩ラーメン」は800円で提供している。
「中野坂上や初台に比べると客単価がだいぶ低くなりました。1000円を切る日もあります。
周りの飲食店を見渡しても800円からは上げられない状態です。となると原価率が50%になってしまうんです。1日平均で230杯を提供し、客席の回転重視で何とか回しています」(小松崎さん)
牡蠣塩ラーメンは「soupmen」時代からの人気メニューで、味や見た目は真似できても、値段までは真似できないだろうと小松崎さんは笑う。
大量の牡蠣を使うスープにいちばん原価がかかっていて、麺も最近1玉10円値上がりした。10円がどれだけ大きいかと嘆く。ぶどう山椒、にんにくりんご酢、自家製辛子高菜など豊富な卓上アイテムも無料。ぶどう山椒は1㎏7万円と超高級だが、それでも無料だ。
豊富な卓上アイテムもすべて無料(筆者撮影)
「“原価率50%”と一口に言っても、1400円で売れば、消費税を引いても600円強は儲かります。2000円で売れば900円以上は儲かるんです。
ですが、800円で売る場合は全然儲かりません。薄利多売でお客さんを増やすしかないんです」(小松崎さん)
1日200杯をしっかり売り、定休日なしでお客さんをたくさん呼ぶことが「無冠」の戦略のすべてだ。オペレーションを徹底的に工夫し、なるべく行列が長くならないようにする
スタッフを4人入れ、茹で時間の短い細麺をずっと茹で続け、1杯1分以内で仕上げていく。盛り付けもシンプルにして、素早く提供できるようにしている。
もちろん、廃棄ロスの削減も頑張っている
食材をムダにしないのも小松崎さんのこだわりだ。
牡蠣のスープを取りながらブレンダーをかけて実を細かくしていき、これにニンニクなどを和えてムース状にする。この牡蠣ムースを麺の上にたっぷりのせるようにした。牡蠣のスープとともにムースを味わうことで、牡蠣のうま味がブーストされる。
これはムダなく食材を使うという考えが原点にある。スープに使った食材は、ダシガラとなり廃棄されてしまうことが多いが、ダシガラも味が残っているのでなんとかうまく使えないかと考え、このムースができた。牡蠣ムースは今や「無冠」のラーメンの大きな魅力の一つ
「安く売って満足してもらうことでファンができていきます。1日100杯出す店より200杯出す店のほうが確実にファンが多くなります。長い目で見たら常連の数が全然変わってくると思うんです。
スタッフも、ヒマよりは動き続けているほうが楽なものです。ガンガン売れる喜びを、味わってもらえていると思います」(小松崎さん)
薄利多売というと、どうしてもネガティブな印象を持たれがちだが、それだけ多くのファンが生まれやすいし、従業員にも働く楽しさを与えられる。小松崎さんはそう考えた
社員には月給35万円、週休2日をしっかりと与える。売り上げや客数が下がった場合は接客を徹底的に見直す。味は小松崎さんが責任をもってクオリティーを保っていく。
「美味しくても接客が悪かったらその店にはもう行きません。こちらがいい接客をすれば、お客さんも応えてくれます。うちのお店が有名になればなるほど、接客も評価されていくようになるんです。お客様からお金をいただいている限りは、こちらはイライラしないと決めています」(小松崎さん)
800円で原価率50%。完全に限界まで来ていると思うが、小松崎さんは本当はもっと安く提供したいのだという。
良い素材を使って高級なラーメンを作ってきたこともある。だが今は安くて美味しいものを作りたいというマインドになっている。
「無冠」のラーメンを食べたいという需要が大きいならば、単価を上げるよりたくさん売るほうをとりたいというのが小松崎さんの考えだ。
「入れかわり立ちかわりお客さんが入ってきて、『いらっしゃいませー!』の声が響いているのはテンションが上がるものです。ここまで来たら、牡蠣で天下を獲りたいと思います」(小松崎さん)
小松崎さんは天下を獲りに行く
小松崎さんはどこで店を出しても必ずお客さんがついてきてくれる。「ヤドカリ戦法」と小松崎さんは呼んでいるが、だんだんお店を広くして、たくさんのお客さんが来られるようにしてきた歴史だ。
「無冠」のブレイクで全国に牡蠣ラーメンのお店が増えてきたため、小松崎さんは辞めることも考えたが、逆にあまりにお店が増えてきて悔しくなり、今後も牡蠣ラーメンのブームを牽引していくことに決めたという。
ここまで牡蠣のうま味があふれるラーメンであればもっと価格が高くてもと思うが、小松崎さんはあくまで客席の回転重視にこだわる。
「お店の場所や規模で、売り方というのは変えるべきだと考えます。店が狭くてお客さんの数が限られるなら高価格に、逆に店が広くて席が多いなら安く提供する。
ラーメン店という滞在時間の短いものにお客さんがいくら払えるのかと思うと、私は阿佐ヶ谷ではあくまで需要の多さに応える形をとっていきます」(小松崎さん)
行列問題にずっと悩まされてきた小松崎さんの歴史。究極の回転重視の薄利多売で、小松崎さんは牡蠣ラーメンで天下を獲りに行く。
社員には月給35万円、週休2日をしっかりと与える。売り上げや客数が下がった場合は接客を徹底的に見直す。味は小松崎さんが責任をもってクオリティーを保っていく。
「美味しくても接客が悪かったらその店にはもう行きません。こちらがいい接客をすれば、お客さんも応えてくれます。うちのお店が有名になればなるほど、接客も評価されていくようになるんです。お客様からお金をいただいている限りは、こちらはイライラしないと決めています」(小松崎さん)
800円で原価率50%。完全に限界まで来ていると思うが、小松崎さんは本当はもっと安く提供したいのだという。
良い素材を使って高級なラーメンを作ってきたこともある。だが今は安くて美味しいものを作りたいというマインドになっている。
「無冠」のラーメンを食べたいという需要が大きいならば、単価を上げるよりたくさん売るほうをとりたいというのが小松崎さんの考えだ。
「入れかわり立ちかわりお客さんが入ってきて、『いらっしゃいませー!』の声が響いているのはテンションが上がるものです。ここまで来たら、牡蠣で天下を獲りたいと思います」(小松崎さん)
小松崎さんは天下を獲りに行く
小松崎さんはどこで店を出しても必ずお客さんがついてきてくれる。「ヤドカリ戦法」と小松崎さんは呼んでいるが、だんだんお店を広くして、たくさんのお客さんが来られるようにしてきた歴史だ。
「無冠」のブレイクで全国に牡蠣ラーメンのお店が増えてきたため、小松崎さんは辞めることも考えたが、逆にあまりにお店が増えてきて悔しくなり、今後も牡蠣ラーメンのブームを牽引していくことに決めたという。
ここまで牡蠣のうま味があふれるラーメンであればもっと価格が高くてもと思うが、小松崎さんはあくまで客席の回転重視にこだわる。
「お店の場所や規模で、売り方というのは変えるべきだと考えます。店が狭くてお客さんの数が限られるなら高価格に、逆に店が広くて席が多いなら安く提供する。
ラーメン店という滞在時間の短いものにお客さんがいくら払えるのかと思うと、私は阿佐ヶ谷ではあくまで需要の多さに応える形をとっていきます」(小松崎さん)
行列問題にずっと悩まされてきた小松崎さんの歴史。究極の回転重視の薄利多売で、小松崎さんは牡蠣ラーメンで天下を獲りに行く。
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