「コインチェック上場」で描く暗号資産の世界戦略マネックス松本氏「変化の期待のど真ん中にいる」緒方 欽一様記事抜粋(有料会員限定)
2018年4月のコインチェック買収時の会見で「仮想通貨の価値は今後も伸びる」と語ったマネックスグループの松本大会長(左)。コインチェック創業社長だった和田晃一良氏(右)は現在、「ファウンダー&アドバイザー」だ(撮影:風間仁一郎)
ネット証券大手のマネックスグループ(G)による買収から6年超。国内暗号資産(仮想通貨)交換所で最大手の一角を占めるコインチェックが、12月11日にもアメリカのナスダック市場に上場する見込みだ。
上場する方針が発表されてから手続きに2年以上を要したが、日本の交換業者として初となる株式上場がようやく目前まで来た。
マネックスGは、コインチェックの親会社である持ち株会社のコインチェックグループ(CCG)をオランダに設立している。CCGをナスダック上場の特別買収目的会社(SPAC)であるサンダーブリッジ・キャピタルパートナーズと合併させることで上場させる。
いわゆるSPAC(スパック)上場といわれるものだ。マネックスGはCCGをスパック経由で上場させた後も、株式の約80%を保有する予定となっている。マネックスGが2018年にコインチェックを買収した際の金額は36億円。それに対してCCGが上場した際の時価総額は2000億円を超えるとみられる。
上場したCCG株が「買収通貨」に
CCGの取締役は9人。リスク管理に関するコンサルティング会社・Krollの幹部や、中国最大の保険金融グループである平安グループの幹部が社外取締役に入る。
代表者となるエグゼクティブチェアマンは、マネックスG会長の松本大氏だ。取締役のうち松本氏を含むマネックス関係者は、マネックスG常務執行役員でコインチェック専門役員の中川陽氏などがいる。
松本氏はナスダック上場の狙いを次のように話す。
「ナスダックで取引されている株式は世界共通に使える『買収通貨』。その買収通貨を活用して、クリプト(暗号資産)やWeb3の事業ポートフォリオをつくっていく」
アメリカでは株式交換による企業買収は一般的。松本氏は、上場したCCG株を使った買収で、事業領域を拡大していく腹積もりだ。テック人材の獲得にも株式型報酬としてCCG株を活用する。
ナスダックといえば、「GAFAM」をはじめとするハイテク企業が多く上場している。同市場に上場すれば、こうしたハイテク企業に並ぶ存在としてCCG株の価値をアピールできると見込む。
多角化はコインベースより幅広く
ナスダックには、アメリカを本拠地とする交換所のコインベース・グローバルが2021年に上場している。
同社の月間取引ユーザー数は約800万人。取引額は今年1~9月の月平均で約800億ドル(約12兆円)。ユーザーから預かっている暗号資産は約2700億ドル(約41兆円)を超える世界大手だ。
交換所が個人ユーザーの取引から得られる手数料は、どうしても相場の盛り上がりに左右される。そこでコインベースは、ブロックチェーン関連で収益を上げたり、ETF(上場投資信託)のカストディー(資産の管理・保管)業務を資産運用会社に代わって担ったりするなどしている。
コインベースの事業多角化は「交換所に関係するところをバーチカル(縦)に伸ばしている」と、松本氏の目には映る。松本氏が思い描くのはコインベースよりも「横」へと伸ばす展開だ。CCGでは次世代のデジタル技術やサービスを指すWeb3の領域まで広げていくとする。
一方、日本国内については、コインチェックの優位性を確固たるものとすべく「ドミナント作戦を目指したい」と松本氏は語る。今年10月末時点の会員数は211万人。預かり資産は7356億円に上り、6月時点での月間取引ユーザー数は13万人いる。
コインチェックでは2018年1月に、約580億円相当の暗号資産流出事故が起きた。その後も国内最大手の一角にとどまったが、事故後の規制強化により、ほかの国内交換業者と同様、コインチェックも停滞の時期が続いていた。
この間、国内で初となるIEO(企業が交換業者を介して暗号資産で資金調達する手法)に取り組んだり、オンライン株主総会運営支援サービスを始めたりするなどしてきた。
しかし、「いろいろとやりすぎて社内リソースが分散した」とコインチェック幹部は反省する。結果、新事業の規模は小粒で、「販売所」に依存する収益構造が続いている。
コインチェックは、外部から仕入れてきた暗号資産にスプレッドという手数料相当額を上乗せして販売する「販売所」からの収益が大きい。コインチェックが得ているスプレッドは平均3.42%だ。
顧客同士で売り買いする「取引所」と違って、初心者でも売買しやすい点が「販売所」の特徴だ。だがユーザーからするとスプレッドはコストでしかなく、意識が成熟していくと高いスプレッドは嫌われる。同社が抱える潜在的な事業リスクといえる。
国内事業も変化の予感
いわば膠着状態にあった同社だが、変化という点で、ナスダック上場、さらには社長交代という新風が吹き込んだことで新たな一歩を踏み出しそうだ。
今年6月に副社長から社長に昇格した井坂友之氏は、スマートフォン向けゲームを手掛けるグリーなどを経て入社した。コインチェックがマネックスGの子会社となって初めて、マネックス以外の出身者が社長に就いた。
しかもこれまでのマネックス出身の社長が管理系だったのに対し、井坂氏は事業系と評される。新領域を開拓していくCCGの方向性とも平仄が合う。
「アメリカの政権が代わる中、厳しすぎた規制が緩和されるだろうとの期待が起きている。そのど真ん中にCCGがいる。私にも期待や興奮がある」(松本氏)
かつて「仮想通貨大国」だった日本。その座を降りるきっかけとなったのがコインチェック事件だった。それだけにコインチェックのナスダック上場は、日本の暗号資産業界にとっても大きな意味を持つはずだ。
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