雅叙園」一方的キャンセルが罪深い"4つの理由"キャンセルされた客への「10万円の迷惑料」は妥当?25/02/22 5:00木村 隆志氏記事抜粋<
「結婚式が式場側の一方的な都合でキャンセルに」「180組ものカップルが困惑している」というニュースを聞いて耳を疑いました。「あの歴史ある『雅叙園』でそんなことが起こりうるのか」と感じた人もいるのではないでしょうか。
東京の一等地・目黒に広大な敷地を持つ老舗結婚式場「ホテル雅叙園東京」で予約済みの約180組に突然届いたキャンセルの連絡。休館が決まったのが2月10日で、挙式予定者には14日から順次連絡をしているようなのです。
ビジネス上の正論だとしても、納得しがたい
18日には施設ホームページにも「休館のお知らせ」と題して、「2025年9月30日を以て建物所有者との定期建物賃貸借契約が満了となるため、2025年10月1日より一時休館とさせていただきます」「今後の営業再開につきましては予定が決まり次第、ご案内させていただきます」「10月1日以降の婚礼・宴会・宿泊・レストラン・東京都指定有形文化財『百段階段』の予約はお受けいたしかねるとともに、すでにご予約をいただいているお客様につきましては、各担当者より個別にご連絡の上、誠意をもって対応させていただく所存でございます」などのコメントが掲載されました。
驚かされたのは、休館予定が今年10月以降というだけで、まだ再開の目途が立っていないこと。「急な決定ではないか」「無計画すぎる」などの声があがるのも当然でしょう。
また、10月以降に予約済みのカップルには、「日程を9月末日までに前倒しする場合、会場料・レンタル衣装料などが無料になる」「式を行わない場合は申込金20万円の返金と迷惑料10万円を支払う」という提案があったようです。
休館やキャンセルの理由としてあげられているのは、主に「2025年1月に建物の所有者がカナダの投資会社になった」「より利益を上げるための方針」の2つ。
2月20日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」でも、玉川徹さんが「『仕方がないかな』という感じはしますね」「投資会社にとっては投資効率が一番重要なこと」などとコメントしていました。
たとえそれがビジネス上の正論だとしても、当事者が納得するのは難しいでしょう。今回の経緯や報道を見ていると、「式場予約者に対する理解不足ではないか」と感じる4つのポイントがありました。
筆者は最初の勤務先が結婚式場で、その後もブライダル関係者と交流を続けていることもあり、「雅叙園のキャンセルがいかに罪深いか」という観点から今回の騒動を読み解いていきます
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他の式場ではなく「雅叙園がいい」理由
キャンセルの罪深さを感じさせられる1つ目のポイントは、当事者たちにとって雅叙園が特別な式場で、「ここでやりたい」と強く思っていたこと。
昭和、平成、令和と時代が変わった今もなお、「結婚式が人生における特別な日」というカップルがいることはいうまでもないでしょう。そこでクローズアップされるのが、雅叙園の歴史と格式、他にはない特別感と美しさ。
雅叙園のルーツは97年前の1928年に創業した純日本式の高級料亭「芝浦雅叙園」。1931年に移転して「目黒雅叙園」になり、“日本初の総合結婚式場”として多くの著名人を含む約23万組超が挙式をあげてきました。
館内には都の指定有形文化財でもある百段階段のほか、浮世絵をモチーフにした木彫り板や天井の扇絵など2500点もの美術品がズラリ。敷地内には四季折々の花々が咲き、美しい日本庭園や滝などもあり、都内にいながら自然を感じられることが魅力の1つでした。
実際、当事者のインタビューを見ると「放心状態」「泣き崩れた」などのコメントもあり、他の式場ではなく「ここでやりたかった」という思いの強さがうかがえたのです
式場を予約するときは、日時や場所、式場の特徴などをベースに「こんな式にしたい」というイメージを持つものであり、2次会の店なども含めてプランを考えている人もいます。また、「地方からの列席者が多いからしっかりおもてなししたい」「子どもにここで結婚式をやらせてあげたかった」などの理由から雅叙園を選んだという人もいるでしょう。
つまり、それだけ思いを込めて、こだわりをもって選んだ式場ということ。さらに「今年1月に予約したばかり」という人もいました。わずか1カ月後に利益追求などのために一方的な結論を出すのがビジネスとしたら、問答無用でそれが優先される世の中になりつつある危うさを感じさせられます。
同等レベルの式場予約は絶望的
キャンセルの罪深さを感じさせられる2つ目のポイントは、人気の結婚式場は1年以上前でなければなかなか予約できないこと。
結婚式で最も人気のあるシーズンは10・11月といわれています。かつて人気があった春は人やお金の出入りが多い時期で、5月は大型連休後、6月は雨と蒸し暑さを理由に避ける人が増えました。
その他でも暑い夏や忙しい年末年始は避けたい人が多いため10・11月の人気は高く、もしキャンセルが10月以降ではなく閑散期の12月以降であればこれほどの混乱はなかったでしょう。契約満了という一点のみで線引きをするドライさがその一因になっているのは間違いありません。
挙式・披露宴の時間帯、大安や友引などの六曜にこだわりがあれば、さらに早期の予約が必要でしょう。10・11月の大安や友引に希望の時間で、雅叙園の予約を取ろうと思ったら、かなり早くから動く必要性があります。
その点、雅叙園からキャンセルされて他の式場を探したところで10・11月の似たような日取りと会場を予約することは極めて困難。実際、雅叙園からの連絡を受けて「急いで別の式場を探したけど、空いていなかった」という当事者の声が報じられています。
「施設、日取り、時間などの希望を少し下げたとしても予約が取れない」という苦境に見舞われているようであり、何らかのサポートが必要でしょう。
ちなみに雅叙園は9月への前倒しを提案していましたが、すでに同月はほぼ埋まり、真夏の8月上旬を提案された人もいるとのこと。単に暑い時期というだけでなく、仮に10・11月から2~3カ月前倒しした場合、それだけ準備を早くしなければいけないなどの難しさも発生します。
しかもここでいう準備は結婚式にかかわることだけではありません。新婚旅行や新居、会社への報告と仕事の調整、出席者の交通・宿泊の手配など、さまざまな準備を早める必要性が発生します。
今回のキャンセルは決して結婚式当日だけのことではなく、そこに至るスケジュールの再考という点でも当事者を悩ませているのです。
式場からの「迷惑料10万円」は妥当か
キャンセルの罪深さを感じさせられる3つ目のポイントは、10万円という迷惑料の設定金額。
雅叙園と予約者の契約内容はわかりませんし、法で争った場合、10万円に満たない解決金にとどまってしまうこともあり得るでしょう。しかし、前述した気持ちの面に加えて、当事者が費やした時間と労力は10万円というお金では測れないところがあります。
まず式場を探し、予約するところから簡単ではありません。たとえ「雅叙園でやりたい」という思いがあったとしても、一生に一度のことだけに「他も見てから決めよう」と思うのが人の心。ブライダルフェアに行って式場見学したり、見積もりをもらって検討したり、料理の試食をしたりなどの時間と労力、さらに決定に至るうえで両家の両親などへの確認なども必要です。
また、「結婚相手があまり協力的ではなく、式場の下見に連れ出すことにストレスがあった」「両家の両親が納得する式場と日取りがなかなか取れなかった」などの難しさを訴える声もしばしば聞きます。
予約後にしなければいけないのは、親族、友人、仕事関係者などの出席者に日時と場所の連絡。加えて、すでに秋の結婚式でも、衣装などのオーダーや披露宴の打ち合わせをはじめている人がいれば、結婚式当日から逆算してブライダルエステやダイエットをしている人もいます。その他では新居などの契約も見直さなければいけない人がいるかもしれません。
もちろん個人差はありますが、今回の件で再び式場探しをしなければいけない人も、日時の変更で出席者に再び連絡しなければいけない人もいるのは事実。あらゆる点でリスケジュールが必要になる、その時間と労力だけでも、10万円という金額が適正とは思いづらいところがあるのです。
結婚式で「変える」は縁起が悪い
キャンセルの罪深さを感じさせられる4つ目のポイントは、結婚式では「変える」「再び行う」「やり直す」「2度目」などの行為は「縁起が悪い」「不吉」などとされ、避けられがちなこと。
披露宴のスピーチなどで使うことを控えたい“忌み言葉”というものを聞いたことはないでしょうか。「失う」「終わる」「切れる」「壊れる」「去る」「捨てる」「離れる」「破る」「別れる」などは好ましくない言葉とされ、令和の今なお「注意して避けている」という人が少なくありません。
それ以上に「縁起が悪い」「不吉」と避けられがちなのが、結婚式にかかわることで「変える」「再び行う」「やり直す」「2度目」などの行為。たとえば、式場や日時の変更は「相手を変えること」を彷彿させ、再び式場を探して予約することは「離婚」をイメージさせるなどの考え方があります。
「変える」「再び行う」などの行為が自分の都合であれば仕方がないと割り切れますが、式場側の一方的な都合では納得しづらいのが実際のところ。もし本人たちが気にしなくても、両親、祖父母、親戚らが場所や日時を変えられたことに「ケチをつけられた」などと難色を示すことも考えられます。
もともと雅叙園だけでなく結婚式場をリニューアルする際は、「変える」という行為を好まない人もいるため、その前後両方の予約者に伝えておくことがマナー。また、「結婚式場を閉める」というケースでは、「縁起が悪い。なぜ教えなかったのか」などのクレームを避けるために伝えておくことが基本となっています。
たとえば、9月までの予約をしていた人の中にも、「休館やリニューアルの予定があることを聞いていたら、縁起が悪いから予約なんてしなかった」という人もいるのではないでしょうか。さらに今回の件で雅叙園の印象が悪化したことで「自分の結婚式にもケチをつけられた」と感じている2~9月の式場予約者がいてもおかしくないのです。
日本の文化をどう守るか
建物の所有者となったカナダの投資会社「ブルックフィールド・アセット・マネジメント」は、ここまでコメントを発表していません。
あらためて雅叙園の歴史を振り返ると、2002年に883億円の負債を抱えて経営破綻し、アメリカの投資ファンドが買収。その後、所有者を転々としながら2017年に「目黒雅叙園」から「ホテル雅叙園東京」に改名し、今年1月にブルックフィールドなどが建物の所有権を取得するという経緯がありました。
実はそれだけ経営が不安定だったからこそビジネスライクに見える今回の決断に至ったのかもしれません。ただ、それを「予約者たちの調査不足」と言って切り捨てるのは酷な感があります。
ここまであげてきた4つのポイントを踏まえると、「雅叙園が責任を持って代わりの式場を探す」「もし高額になった場合は差額を払う」などの誠意ある対応を求めたいところですが、現実的には難しいのではないでしょうか。
結婚式をめぐる状況としては「婚姻数も結婚式をあげる人も減っている」という厳しい現実があるのは確かでしょう。しかし、もし雅叙園が今後インバウンド需要を重視した外国人向けの超高級ホテルになっていくとしたら、日本人にとって歓迎すべきこととはいいづらいところがあります。
結婚式場として培ってきた伝統や実績を手放すことは仕方がないとしても、日本人の信頼を失ってしまうことは長い目で見たら得策なのか。日本の大切な建築物や文化を外国からどのように守っていけばいいのか。結婚式の当事者ではない私たちにとっても考えさせられるニュース
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