三毳山(みかもやま)という名は万葉集にも詠まれている。
1300年も前からこの山が当時の人々に崇められていたと思うと、やはり地元に住んでいる者としては嬉しい。
いつの頃だろうか。たしか昭和50年代の後半だったと思うが。町の人が山に入って、カタクリの群落を偶然見つけた。それからいろいろ佐野市などがご苦労されて、今ではその数は150万株にもなっているという。
3月中旬から4月上旬まで次々にその可憐な花を咲かせてくれる多年草。「カタクリの里」として、今では東京方面からもどっと観光客がやってくる。
この佐野のカタクリは、ロープはあるものの遊歩道沿いに左右に花が見られるのがいい。奥行きがあり、その数150万というのにはさすがにびっくり仰天せざるをえない。
ほんとうにそんなにあるのかなんてヤボなことは考えず、今を楽しめればそれでいい。遊歩道は脇道もけっこうあるので、いろんな方角から楽しめるのも嬉しい。
万葉集では「堅香子(かたかご)」という呼び名でわずかの一首だけ詠われている。大伴家持が富山県の高岡で、そのかたかごの咲く側でたくさんの乙女たちが井戸水を汲んでいる姿を詠んだものだ。
早春の林の中などに姿を見せる「カタクリ」。
ユリ科の植物で、球根の形が栗の実を半分にしたような感じなので片栗と呼んだ。日光に敏感で、日が陰ってくるとたちまち閉じてしまうという。
若葉は柔らかく、甘味があるので、古くから野草料理として重宝がられていた。きっと万葉の人々も花の可憐さに見惚れるとともに、食糧として重んじていたことと思う。
残念ながら昔はこの茎から抽出したデンプンを片栗粉として利用していたが、今ではまったくそれはなくなったとのこと。
別名は猪の舌(いのした)、片子(かたこ)、初百合、などがあるが、カタクリが一般的な名であろう。
天然のカタクリは今では少なくなってしまい、かつ増殖のむずかしい花なので、絶滅しはしないかと案じる専門家もいるようだ。
弱いものは人間が守ってやらなければならないのだと改めてその大切さを思う。
「季節の花(55) カタクリの花を訪ねて」