小さい頃はよく土手に遊びに行った。
途中田んぼの畦道を通り抜けると近くなるので、近所の子らとけっこうその近道を土手まで歩いた。ガキ大将気分で、なにかといえば近道好きが得意気な正義の味方だったのかもしれない。近年ではガキ大将はてっきり見かけなくなったが、当時は近所のやんちゃ集団のリーダーだと自分でも思う。持参した小刀で作った棒っきれの剣でチャンバラはやり放題。えびがに(ザリガニ)をバケツにいっぱい採ったりしたものだ。
渡良瀬の土手から見渡すあの頃の景色の広がりは今でもくっきりと目に焼きついている。
あたり一面、よくわからない草のような花がいろいろ咲いていて、春は特に美しかった。れんげや菜の花。それにタンポポもあたりを彩っていた。
そんな中、土筆がたくさんあったような気がする。採るのが面白くて、こっちにもこっちにも。みんなでポケットいっぱいに詰めこんだ。
春の山菜として親しまれているが、最近ではあまり口にする機会がなくなった土筆。本来は「つくづくし」と言ったらしい。
一つの花や鳥などにも地方によってさまざまな呼び方があるが、この土筆も例外ではない。
本来は「スギナ」と呼ぶことも多いが、調べてみたらあるわあるわ。
御坊主(おぼうず)、狐蝋燭(きつねのろうそく)、狐筆(きつねのふで)、地獄の底の鉤吊(かぎつるし)、土の筆(つちのふで)、蛇枕(へびのまくら)、弱法師(よろんぼし)、つくしんぼ、地獄草、筆の花などなど。
乾燥させたものを利尿作用として古くから利用していたらしく、近年は花粉症対策として効能があるとの発表があった土筆。
いっぱいに持ち帰り、母に茹でてもらった。というか、無理やりお願いして、茹でさせたというほうが正しいのかもしれない。
ののひろももちろん採ったことを覚えている。
大人になってから、この「ののひろ」というのは茨城弁で、正式には「野蒜(のびる)」と呼ぶ雑草だということを知った。ラッキョウに似た、食用になるおいしい野草といったところか。
その歴史は古く、古事記や万葉集にもその名は登場する。わが家がここへ越してきた頃は近所の畑や川のほとりにかなり自生していた。数キロ行った所は私の生まれ育った地ではあるが、今はそのあたりは大型スーパーが建っている。ここでも自然が開発に負けてしまった。
草花は、宅地やスーパーに押しきられた部分もあるけれど、春を迎えようとする自然のいとなみは相も変わらずデンと構えて、幼少の頃と少しも違っていないとこの土手から見据えている。
春の渡良瀬游水地はそれを顕著に教えてくれる。
「季節の花(15) 土筆(つくし)とののひろ」