石の民「君は星星の船」第6回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
●「帰りたい、故郷に」リアノンは言った。
我が僚友リアノン。この時期の生と死をともにしてきた。
リアノンは消えかかっている。
リアノン、消えないでくれ。
我が友。船、
船が壊れる
彼の故郷への道がいかなるものであるのか、想像を絶していた。
■またか。石の男は、自分が、自分の夢の中にいることはわかっていた。この夢はとても
リアルだ。
石の男のたっている周囲は、累々たる死体の山だった。この戦いで私とともに戦い、滅
んで行った男たち。
聖戦。
■機械神は我々に、聖砲をつかった。次々消えて行く人々。消え行く町町。機械神の軍隊
の姿はみえなかった。この戦いにどんな意味があったのだろう。
石の男は総てを思い起こす。
アルナ。映像記憶が蘇ってくる。ある女性の姿が、そうだ。
石の男は涙していた。仲間の死体を星の世界に返してやりたい。あの青き空間に漂わせ
てやりたい。
■巡礼ポレフは、トゥーンから遠くはなれたハル星系のゲルダ星から来ていた。
この星にくるまで、「石の男」の街、樹里に来るまで、どれくらいの金銀をためただろう。ポレフは、生まれてこの方、この星にくるためのみに金をためていたのかもしれない。
星間船の乗船賃はこのころでも安くはなかった。一般庶民の手におえるものではなかった。
そんな思いをしてたどり着いたこの星で、巡礼のポレフはあり得ざるものを見た。それを
みつけた。
「信じられない。こんなことがあってもいいのか」石の男を信仰の対象としてき
たポレフにとってまさに晴天の霹靂だった。
石の男のまなじりがひかっているのだ。
「見てみろ、石の男が泣いている」同時に各地の巡礼たちから驚きの声があがっていた。
■ 祭司アルクも石の男が涙を流すのを眺めていた。アルクは今日は非番だった。
祭司のアルクは、典型的な樹里の男の顔をしていた。鼻梁は高く、ほりの深いかおだち
だった。
まるで哲学者の顔だった。髪は黒で、祭司にきめられた通り短く切り揃えていた。
目はマリーンブルーだった。すんだ目で遠くを見ているようだった。身長180CM。や
せ型だった。適度の筋肉がついていて、動きは軽やかだった。
「ねえ、おとうさん、石の男はなんてかわいそうな顔をして入るの」
祭司アルクのかたわらにいた彼の子供ミニヨンがいった。
ミニヨンはアルクの自慢の娘だった。長い金髪は豊饒を思わせ、いままさに少女から、娘に移行する女のあやうさを見る者にかんじさせる。
母ドルミはしばらく前に、はやり病でなくなっていた。
父と娘は同じような白い絹のチュニックを着ていた。
祭司とその家族にゆるされている服装である。
『娘よ、私の悲しみがわかるのかね』娘のミニヨンの心底に声が響いた。
心底とは、精神の内部、心の内部をいう。
「えっ、いったいあなたはだれ、私の心理バリアーを容易に破れるわけはないわ」
祭司の一族は特に心理バリアーが強固だといわれている。
他人に自分の心のうちを読まれないようにしている。
『私にとってはそれは容易な事だ』
私に話し掛けてくる男はだれなのだろう。特殊な能力をもつ外惑星にいる人間か、ミニ
ヨンは、たずねながらまわりを見渡す。
「あなたは、どこにいるの」
『君の目の前だ』
ミニヨンはまわりをみわたすが、巡礼の人ばかりで、それらしき人はみ
えない。どの人も優れた能力をもつ巡礼とは見えない。
「いったい、あなたは」
『私は石の男だ』
石の民第6回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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