ロボサムライ駆ける■第22回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」 you tube manga_training
「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」
ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。
「むっ、しまった」
(しまったのは、西日本の役人だが…)
むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。
主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。
但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。
すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。
数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。
「レイモン閣下、ともかくこの場をお離れください」
「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」
レイモンは我と落ち着いている。
「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」
「夜叉丸どのは……」
「私は、後ずめじゃ」
「こころえもうした」
「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」
「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」
一言付け加えるレイモン。
主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。
「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。
「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。
「何物じゃ、お前は……」
「こおいうものじゃ……」
数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。
その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。
いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。
ようやく議場外の回廊に出た。
が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。
蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。
「レイモン、まて、売国奴め」
男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が……
「いかん」
主水はナイフの前に自らの身を投げた。
が、その一瞬主水の持病が出た。
その時精神が空白となる。
主水の体は倒れる。
主水の体重は並の重さではない。
人間の三倍はあるのだ。
ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。
「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。
「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」
まわりの人々が走り寄る。
警備員がようやく気付き走ってくる。
「何だと」
人々は殺気立っている。
「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」
再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」
口々に人は糾弾する。
「この男がナイフを…」
が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。
「レイモン様、ご助言を」
振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。
呆然とする主水。
「これは、一体……」
「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」
「何をいうのじゃ」
主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。
「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」
「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」
「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」
議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。
廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。
ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。
「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」
声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。
そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。
「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」
冷たい声音であった。
恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。
死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。
「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」
「そうだといえばどうする」
ニヤリと笑う死二三郎。
「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」
主水に武器がないことに気付く。
「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」
そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。
「かたじけない」
主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。
そう言った瞬間、相手は動く。
「ぐっ」
ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。
「ひきょうなり」
主水の左腕が見事に切り離されていた。
習練の早業である。
痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。
「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」
この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。
「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」
護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。
死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。
「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」
「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」
護衛は呼ばわった。
「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」
と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。
こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。
「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」
「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」
「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」
「死二三郎、待て」
護衛全員が叫ぶ。
切りかかろうとする死二三郎。
その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。
電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。
魚のかわりに、ロボットだ。
死二三郎は黒焦げになって倒れる。
議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。
「こやつは狂犬か」
護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。
「いいや、狂犬より始末に悪い」
「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」
護衛同志の会話である。左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。
「ええい、このロボットもからめとれい」
電磁網が天井から降りてくる。
電撃が主水の体を走る。
「いかん、わしも魚か」
主水の意識がフェイドアウトした。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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