■聖水紀ーウオーター・ナイツー■第3回
1975年作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
聖水紀(2)
「おいおい、まじかよ。何かの冗談じゃないだろうな」
地球の関門である第1ゲートで、オペレーターの一人バルボアが
モニターを見て叫んでいた。
第1ゲートの監視機械は、地球に接近するロケットの積み荷のチェックができる。
「どうしたバルボア」
もう一人のオペレーター、ジルがいった。
この第1ゲートでは、2人当直体勢をとっている。
「ジル、みてくれよ。こいつは水で一杯のロケットだぜ」
「本当だな。宇宙連邦軍もどうかしているぜ」
「誰だい。操縦者は」
「待て待て、コードをチェックしてみる」
「げっ」バルボアがモニターをのぞきこみ叫んでいた。
「俺達は、悪いクジをひいたぜ。操縦者はタンツだ」
「私だ。タンツだ」
当のタンツから連絡がはいった。
タンツは伝説の男だった。
「ウェーゲナー・タンツ大佐、このコードでは、あなたは恒星に向かっているはずですが」
バルボアは自分の声に不快の念があらわれていないか気になった。
「特殊任務だ。常人にはわからん」
怒りを含んだ声がかえってくる。
「でも、大佐、これだけ大量の水を地球にもち変えるおつもりなら、許可書が必要です」
「いっただろう、特殊任務なのだ」
その時、バルボアが透視機械のモニターをみて叫ぶ。
「ジル、おかしいぞ。タンツの体が水中にある。おまけに宇宙服をきていない」
「何だって、緊急対応指令だ」
<危険、タンツは汚染されている>
この内容で、緊急対応B102指令緊急コードが、地球連邦本部に連絡されようとした。
ロケットの側壁から、何かがにじみでてくる。
水の固まりだ。
そやつが宇宙空間を飛んで行く。
まるで意志をもつ存在の様に。ゲートの司令室に侵入する。
オペレーターの操作卓の壁面から、しみこむように、液体が二人の方に襲ってきた。
二人には理解を絶する光景だった。
「これは何だ」
「うわぁー、」
二人はこの液体中で消滅していた。
二人を飲み込んだ液体と船の水の意識が、連絡していた。
『どうだね、まにあったかね』
『まだ、情報は発信されていなかったようです」
が地球の防御システムはそう甘くはない。
第1関門の事故は、至急に地球連邦軍の本部に連絡されていた。
本部にあるメインミーテングルームで、将軍とスタッフが緊急連絡会議を開いていた。
「連絡をうけたのだが、それほどの緊急事態なのかね」
地球連邦軍ハノ将軍は早朝から呼び出され、週末のスケジュールが変わったのでいささか、お冠だった。
現況では平和が続き、地球連邦軍が出動する事態などなかった。
「タンツが協力している模様です」
スタッフの一人が将軍に言う。
「何だと、タンツが、信じられん。彼はタンホイザー・ゲイトに向かっていたのではないか」
白髪豊かなハノ将軍は衝撃を受けていた。
「この映像をご覧ください」
映像をみたあと、最高軍司令官ハノ将軍はいった。
「で、この液体は現在」
「現在、不明です」
ハノ将軍は少し、考えたあと、ある回線をつないだ。
危機の可能性は少しでも潰しておくべきだ。
それも早急に。
ミーテイングルームのモニターに相手がでるとハノは言った。
「あなたの息子が、我々を裏切ったのです」
ハノは断言していた。
『信じられません。何かの間違いでは』
機械的な声で、タンツが息子という相手は将軍に答える。
「我々も信じたくない。が、我々としては、防御処置をしなくてはなりません」
『といいますと』
「あなたを抹殺します」
『後悔することになりますよ』
その「マザー」の声は感情なく言った。
「タンツの手引きで、あなたが彼らの手にはいった時を恐れる。なぜなら、あなたは我々の総てだから」
ハノはマザーの抹殺ボタンを押した。
タンツはそのとき、マザーの声を聞いたような気がした。
「水人」(みずびと)が発言する。
『軍は我々の存在に気がついたようだね』
『どんな方法をとるべきかだ』
「雨になって侵入しなさい」
タンツが言った。
タンツは「聖水」にあやつられるまま、地球の情報をしゃべっていた。
『雨だって』
「そう、雨です。雨なら怪しまれず、侵入できる」
タンツが言った。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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