源義経黄金伝説■第28回★
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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秀衡の政庁である伽羅御所で、宴が開かれていた。
秀衡が上機嫌で、招かれた西行に挨拶する。
「西行殿、今日はよう来てくだされた。お知り合いを紹介しょう」
「この西行の知り合いですと、はて」
秀衡はほほえみながら
「これへ、、」
小柄な優男が、障子の向こうから現れて、西行に深々と頭をさげる。
「西行様、義経でございます」
「おお、これは……もうやはり平泉に着いておられたか」
西行は、身繕いを正す。
「それでは、私はあちらへ……ゆるゆるとお話下され」
秀衡は気を使い、二人っきりにしてくれた。
西行は源義経に深々と頭をさげた。
「私が西行、歌詠みの僧です」
「西行様、ありがとうございます」
義経が、逆に西行に対してまた深く頭を下げる。
「これこれどうなされた。源氏の武者が、歌詠みの老人に頭を下げるとは
めんような」
「いえいえ西行様、お隠しありますな」
「これは何をおっしやるのか」
西行が名乗りをあげるのは、この時が始めてである。それ以外は、鬼一眼が義経牛若丸の相手をしている。正式な紹介は今までなかったのだ。
「昔、私が鞍馬に引き取られたのも、西行様のお働きがあったと聞いております。また商人金売り吉次殿が、この平泉に私を連れて来てくれたのも、西行様のお口添えと聞いております」
「はて、またおかしなことを申される。私は単なる歌詠み。それほどの力は持っておりませぬ」
「いえいえ、お隠しあるな。私の供者、弁慶が知識の糸は、日本全国に散らばる山伏の知識糸でございます。この世の動き、知識は、世にある山伏の、すべて口から口へと伝えられております。
西行様、お礼を申し上げます。この平泉で秀衡様に我が子のように可愛がられたのも、西行様の口ききのお陰。いや、またこの私が、平家を壇の浦で滅ぼすこと ができたのも、十五才の折りよりこの平泉王国や外国で学びました戦術のお陰でございます。すべては西行様の縁から始まっております」
義経はふと、十五年前の京都の鞍馬山、僧正ケ谷を思い起こしていた。
この後、秀衡の政庁である伽羅御所の北に離れている義経の高館へ。
西行は招待されていた。
義経は、自分の屋敷で、うって変わって弱気になる。
「のう、西行殿、私はだれのために戦ってきたのであろうか」
義経は。急に気弱になって父親に話すがごとくである。
「何をおっしゃる。今、日本で天下無双の武者であられる義経殿が、何をお気の弱いことをおっしゃられる」
「しかし、西行殿」
義経の顔がこわばっている。
ある思いでが義経の精神な傷としていつも義経の心にある。
「私の最初の……父親の膝の記憶は、何と清盛殿なのです。母、常盤が清盛の囲い者であったからのう。養父の大蔵卿長成殿の記憶は、あまりないのです」
「……」
「それに平泉についてからは、秀衡殿の北の方、また外祖父の藤原基成殿の保護をうけました。奥州藤原氏と京都藤原氏との眼に見えぬ縁あるあるいは糸があったのです」
「……」
西行は、ただ聴き入っている。
義経は、自らの心の闇をのぞき、自分の過去半生を知る西行に、おもいのたけを打ち明けていた。
「考えて見れば、私の一生は、いろいろの人々の糸がもつれ合っております。源氏の糸、京都藤原氏の糸、奥州藤原氏の糸、後白河法皇様の糸、眼に見えぬ平家の糸」
義経は少し考えていたのか、しばらくおいて話した
「いま考えれば、平家の糸があればこそ、平家の長者平宗盛殿、平清宗殿を、あの戦いの折り、殺さずにおいたのじゃ。それが一層兄者頼朝を怒らせてしもうたとはのう。何という世の中だ」
義経、溜め息をつく。
「そして、、、最後は西行殿が糸です。西行殿も奥州藤原氏のご縁です。それに加えて、西行の別の糸がございましょう」
「私の別の糸とは」
「結縁衆の糸です。いや山伏の糸といってもいいかもしれません」
西行は義経の顔をみている
「私は、いろいろな糸に搦め捕られて動けませぬ」
義経は、この地で、どうやら鬱状態に入っている。
西行は思う。
この和子,義経は、ついに安住の地をみつけられなかったか。背景となり保護してくれる土地がなかったのか。
私西行が、この地,平泉に、義経殿を送り込んだのも間違いかもしれぬ。その行為は義経殿の悩みを増大させたのかもしれぬ。
「ここ平泉が死に場所かもしれません。しかしながら、私は、清衡殿、秀衡殿のように中尊寺の守り神となることはできぬでしょう。私は奥州藤原氏の長者ではないのです」
初代清衡、二代基衡の遺骸は、守り神として、中尊寺黄金堂三味壇の床下に安置されている。
「義経殿は、みづからが、奥州藤原氏になる事をお望みか」
「いや、そうではござらぬ。拙者はやはり源氏の武者、華々しく戦って死にとうござる。が、戦う相手が兄者では」
ためいきをついている。
「迷われておられるのか」
西行は、こころの奥深いところから、怒りがわき上がってきた。
「義経殿が迷いが、この平泉仏教王国を滅ぼされますぞ」
この義経の弱気が平和郷を崩壊させる。
「しかし、この仏教王国も元々は奥州藤原氏が造られた。私が、この国の大将軍になるは荷が重うございます」
「秀衡殿のお言葉がございましょう」
「その言葉、仕草が重うござる。何せ戦う相手は兄者が軍勢。また相手の武者ばらは、私が一緒に平家を滅ぼした方々。いわば戦友。その方々を相手に戦わねばならぬ」
西行は京都の松原橋の事件を思い起こしている。
「義経殿、私はこの平泉王国が好きなのです。この異国の平泉が。この平泉を私が訪れましたのは、二十六才の頃です。それは、それは、このような地が日本に あるとは…、平泉は仏教王国、聖都です。このような平和な美しい都が、末長く続いてほしいのです。この度の、私が平泉をおとづれる目的も知っておられま しょう」
「聞いております。法皇様は、この平泉が鎌倉と事を構えないように、お考えになっておられるとのこと、相違ございませか」
「さようでございます」
「そのために、この義経が邪魔だと」
「そうおっしゃるでしょうな。が、義経殿、秀衡様は別の考えをお持ちです」
「と、いうと」
「義経殿のお命を、平泉の沙金で買おうとなさっておいでなのです」
「この私の命を、、沙金でと…」
「お怒りあるな。義経殿もご存じでござろう。南都東大寺が平重盛様に先年焼かれてしまいました。その勧進使度僧を重源上人がこの私にお命じになり、この平泉までやって参りました。私西行は平泉への途上、鎌倉へ寄り、頼朝様にも会っております」
「兄者と…」義経、表情が変わる。
「いえいえ、心配なさるな。義経殿へのはかりごとを、秀衡様とあらかじめ書状で取り交わしておりました」
「兄者は何と…」
「義経様も、お聞き及びでしょう。東大寺勧進が、頼朝様は金千両、それに対して秀衡様は何と金五千両。その差四千両。これではあまりに差がつきます。それで秀衡様より、内密に頼朝様に金四千両の沙金をお渡しする約束できております。それを東大寺へお送りします」
「私の命を、平泉の砂金四千両で買おうとうわけですか」
「いえいえ、頼朝様のこと、今は四千両を受け取り、後々様子をお伺いになりますでしょう」
「それが平泉からの物資、必ず鎌倉を通すという約定の本当の目的なのですか」
「さようでございます」
続く2,01308改訂
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