此の世には身の不運と思って諦めるより仕方のない事が幾らでもある筈だ

運が悪いから上手く行かないんだ　と言う人が居る
然し　運は必ずしも真理では無い　
何とかなく何をやっても上手く行かない人の中には
夢見がちな人が多くて　其の人は実際には　志しを遂げなくても
其の過程で　本当に上手く行ったのと同じ位い
大きな野望とか楽しい夢を見たのだから（夢を見たのだから）

人間は　生命と同時に　魂も生かされなくてはならない
他人は　例外を除いて　生かしてくれないと思わねばならないのだから
自分は自分で生かす他は無い

一人一人何十年かを生き　一人一人死んで逝く人間が
此の世に居る間に出来る事と云ったら
儚い其の場限りの　優しさを示し合う事丈なのではないか

良い事も　悪い事も　明日は如何なるか判らない
これが真実だ　悲しい乍ら　滑稽乍ら事実である

　　『失敗と云う人生はない』　曾野綾子著　海竜社刊