A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

練習を始めてから30年後に陽の目をみたジョーヘンダーソンのビッグバンドであったが・・・

2014-11-19 | MY FAVORITE ALBUM
Joe Henderson Big Band

1966年サドジョーンズ&メルルイスのオーケストラが立ち上がると、他にもフランクフォスター、ケニードーハム&ジョーヘンダーソン、そしてデュークピアソンなどのビッグバンドが編成される動きに繋がった。

ジョーヘンダーソンのビッグバンドが編成されたのは66年の夏。サドメルに遅れる事半年であった。ペッパーアダムスの年表を見るとこのリハーサルオーケストラにペッパーアダムスも参加していた。最初は週に3回午後にThe Domというナイトクラブで活動を開始。譜面台も無く椅子にスコアをのせてのリハーサルが始まった。

ジョーヘンダーソンはオハイオ生まれだが、大学はデトロイトのウェイン大学。ドナルドバードやペッパーアダムスと同窓になる。そこでは、バルトークやストラビンスキーも学んだという。それ以前に高校時代、彼が興味を持ったのはスタンケントンオーケストラであり、特にアレンジには当時新進気鋭で売り出し中のビルホルマンに惚れ込んだという。テナーはレスターヤングをコピーして学んだようだが、プレーだけでなく曲作りやオーケストレーションにも興味を持っていたようだ。

1962年兵役を終えたジョーヘンダーソンはブルーノートで華々しくデビューする。自己のリーダーアルバムだけでなく、サイドメンとしても数多くのセッションに参加した。サイドワインダー、ソングフォーマイファーザーというブルーノートにとっては記録的なセールスを上げたアルバムのどちらのアルバムにも参加したのがジョーヘンダーソンであった。ブルーノートにとってジョーヘンダーソンは商売的には福の神であったのかもしれない。しかし、それがヘンダーソンのやりたいことをすべて満足させてはくれなかった。

ジョーヘンダーソンにとっては若い頃学んだ作曲やアレンジを披露するオーケストラの場が欲しかったのだが、ブルーノートでそれを実現することはできず、ケニードーハムと一緒に全くプライベートに同好の士を集めたリハーサルオーケストラを立ち上げた。

レコーディングどころかクラブやコンサートへの出演機会も少なかったが、皆は黙々とリハーサルを続けた。練習場所だけは、ナイトクラブから録音設備の整ったスタジオに変った。アダムスの年表を見るとこのリハーサルの模様を収めたテープは多く残されているというが世には出ていないようだ。リハーサルのメンバーはルーソロフ、ジミーネッパー、カーティスフラー、チックコリア、ロンカーター、ジョーチェンバースなどの中堅を中心に若手メンバーも多く加わっていた。しかし、実際には、当事者以外はその音を聴く事の出来ない幻のオーケストラであった。

しかし、聴衆の前で演奏する機会が少ないと、練習を続けるエネルギーもだんだん無くなり、一年後にはケニードーハムが去り、数年でバンド自体が自然消滅してしまった。
その後、ヘンダーソンは1969年にはセルドンパウエルに替わってサドメルにも加わっていた。創世記のメンバー主体の一番脂ののりきった時期であり、ヨーロッパツアー時のライブでサドメル時代のジョーヘンダーソンを聴く事が出来る。自らのオーケストラは満足に活動できなかったが、その無念を晴らすためにもオーケストラの楽しみをサドメルで十分に味わったのかもしれない。

70年代はビッグバンドどころか、メインストリームのジャズ自体も下火となり、ジョーヘンダーソンもニューヨークで第一線での活動を諦め、サンフランシスコに移り住むことになる。この時期は一流のプレーヤーでも仕事が無かった時代だったといわれている。

西海岸では、スタジオの仕事も多く、ブラッドスウェトアンドティアーズに加わった事もありジャズを離れたといわれているが、本人がいうには決してジャズの活動を止めていたという訳ではない。確かに70年代にもマイルストーンで何枚かアルバムを作り、他にもサイドメンとして加わったアルバムは何枚かある。しかし、その時代を象徴するように中途半端であり、60年代の活躍ぶりとは雲泥の差があった。

ヘンダーソンが第一線に復帰したのは1980年になってから、チックコリアがリターンツーフォーエバーを解散しアコースティックのプレーを再会した時に良く一緒にやっていた。コリアとは15年前ビッグバンドを一緒にやっていた旧友でもあったが、当時、2人のストレートアヘッドな演奏を聴いて何か安心した記憶がある。

1992年3月14日、やはり以前コンビを組んだフレディーハバードと一緒にニューヨークのAllice Tully Hallのステージに立った。その時バックを務めたビッグバンドのメンバーには30年前一緒に練習をした仲間達の顔もあった。せっかくまた集まったのだからということで何曲かレコーディングをすることになった。このアルバムの内の3曲はこの時の録音だ。Verveと契約をしたヘンダーソンは快調に新アルバムを作っていた。そこで、このビッグバンドが中途半端のままであったのが気に掛かったのだろう、4年後の1996年にまたレコーディングの機会が設けられ、このアルバムが出来上がった。

リハーサルを始めてからすでに30年の月日が経過していた。最初のリハーサルに参加していたペッパーアダムスはすでにこの世にはいなかった。レコーディングには一緒に参加していたジョーテンパリーもいたが、アダムスの後継者でもあるゲイリースマルヤンも参加している。他のメンバーを見渡してもVJOのメンバーが多く参加している。30年前はメンバーの中にサドメルのメンバーもいたが、サドメル同様メンバーも代替わりした事になる。
立ち上げ時のリハーサルに参加していたチックコリアも1996年のレコーディングには参加して素晴らしいソロを披露している。難産の末に生まれたレコーディングの機会は創立時のメンバーにとっては感慨一入であったと思う。

このジョーヘンダーソンのビッグバンドをライナーノーツでは「ビッグバンドのようでビッグバンドではない」と記してある。ジョーヘンダーソン自身もカルテットで演奏する時とビッグバンドで演奏する時に違いは無いという。

このアルバムも30年前のアレンジを何曲かは使っていると思われるが、30年間の時代の変化を感じさせないモダンなサウンドだ。66年当時サドメルのオーケストラが既存のビッグバンドとは違ったサウンドを聴かせてくれたが、同じ時期ジョーヘンダーソンも同じようにモダンなサウンドを聴かせてくれていたのだ。やはり、ケントンの流れを引き継ぎ、ビルホルマンに影響を受けていたというアレンジは当時も今も先進的である証左だ。

サドジョーンズのアレンジはソロを引き立たせると同時にアンサンブルワークも見どころが幾つもあるが、このジョーヘンダーソンのビッグバンドは自らのテナー、そして限られたソリストのプレーを引き立てるためのアレンジを重視している様に思う。これはヘンダーソン自らのアレンジに限らずこのビッグバンドの共通している点だ。それがビッグバンドでありながらビッグバンドではないという事かもしれない。

初演から30年経ってからこのオーケストラが陽の目を見たのも、晩年のVerveの演奏で再びヘンダーソンのプレーが見直され、プレーだけでなくアレンジやオーケストラの使い方が注目されたからであろう。晩年の活躍が無ければ、幻のビッグバンドになっていたかもしれない。
この録音を終えて、ジョーヘンダーソンは、「時代は変った」といってこのビッグバンドを続けることは無かった。今のミュージシャンはすぐに有名になることそして金儲けを優先する。こつこつと自分で練習を重ね、技を磨くことをやりたがらないからと。30年前の自分達の姿を思い浮かべたのだろう。



1. Without A Song    Vincent Youmans 5:24
2. Isotope         Joe Henderson 5:21
3. Inner Urge       Joe Henderson 9:01
4. Black Narcissus    Joe Henderson 6:53
5. A Shade Of Jade    Joe Henderson 8:23
6. Step Lightly      Joe Henderson 7:20
7. Serenity        Joe Henderson 5:52
8. Chelcea Bridge    Billy Strayhorn 4:30
9. Recordame       Joe Henderson 7:25

Joe Henderson (ts)
Recorded on March 16, 1992 Session(#1,5,8)
Lew Soloff (Tp), Marcus Belgrave (Tp), Virgil Jones (Tp), Idrees Sulieman (Tp), Jimmy Owens (Tp), Freddie Hubbard(Tp)
Robin Eubanks (Tb), Kiane Zawadi (Tb), Jimmy Knepper (Tb), Douglas Purviance (Btb)
Bob Porcelli (As), Pete Yellin (As), Rich Perry (Ts), Craig Handy (Ts), Joe Temperley (Bs)
Ronnie Mathews (P),
Christian McBride (B),
Joe Chambers (Ds)

Recorded on June 24-26, 1996. Session (#2,3,4,6,7,9)
Jon Faddis (Tp), , Nicholas Payton (Tp), Byron Stripling (Tp), Tony Kadleck (Tp), Michael Phillip Mossman (Tp), Ray Vega (Tp), Earl Gardner (Tp)
Canrad Herwig (Tb), Keith O'Quinn (Tb), Larry Ferrell (Tb), Dave Taylor (Btb)
Dick Oatts (Ss,As), Steve Wilson (As), Tim Ries (Ts), Charlie Pillow (Ts), Gary Smulyan (Bs)
Chick Corea (P)
Christian McBride (B)
,Al Foster(Ds), Lewis Nash (Ds)
Helio Alves(P)
Nilson Matta(B),
Paulo Braga(Ds)

Arranged by Bob Belden (#4,6)
Slide Hampton (#3,5,6,7)
Joe Henderson (#1,2,8)

Big Band
Joe Henderson
Polygram Records
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