冬桃ブログ

光を集め、闇を振りまいて消えた男

「横浜寿町 地域活動の社会史 下巻」に
「NPOさなぎ達の設立」という項を書いた。
 長い間、書きたくても書けなかったことを
ようやく(その一端ではあるが)ここで
書くことができた。

 2001年、ホームレス支援を掲げ、
寿町に誕生した「NPOさなぎ達」は、
さまざまま意味で大きな話題を呼び、マスコミの
取材が殺到した。
 理事たちの顔ぶれが多国籍であったこと、
荒々しい男の町だったにも関わらず、若い
高学歴の女性が「表の顔」だったこと。
 横浜のみならず、他からも有名文化人、有名大学の
学生達など、これまでドヤ街に無関係だった人たちが
このNPOの主催するドヤ屋上のパーティーなどに
多数集まってきたこと……などなど。

 じつはこのNPOを、実質的に設立からリードしてきたのは
「Yさん」と呼ばれる一人の中年男性ホームレス。
 リードというより、後ろですべてを操っていたと言える。
 彼はマスコミに顔も名前も一切出さなかったが、取材の
ほとんどを仕切っていた。そのこともマスコミにとっては
新鮮だったのだろう。
 多くの人々が、Yさんの放つ「未知の光」に引き寄せられた。
 極言すれば、彼は新興宗教の教祖にも似た存在になった。

 Yさんは人々を魅了し、ドヤ街を変えた。
 ハンサムで強く、能弁で愛嬌があり、
まれにみるリーダーシップの持ち主だった。
 しかし過去を含めて、なにもかもが謎。
 私はその謎が知りたくて、彼が若いころに
住んでいたというバンクーバーへ行ってみた。
 昔は日本人街があり、Yさんもそこに
住んでいたのだが、かかわりを持った人たちを探し出し
話を聴かせてもらった。
 ようやくそれで、いま彼が横浜寿町でしていることの
ルーツが見えてきた。

 しかしその頃から、Yさんは恐ろしい本性を
現し始めていた。光とは真反対の闇に、それまで
護っていたはずの人々を落としていったのだ。

 できれば一冊のノンフィクションとして書きたかったのだが
私はなんの実害もなかったとはいえ、その渦中にいた。
 何人もの善意の人達が、大きな傷を受けたことを知っている。
 書くことで、再度、彼らの傷口を広げることになりかねない。

 しかし今回の本で、ようやくその一端を書くことができた。
 寿町の人達を中心に看取り医療を行っている
「ポーラのクリニック」の山中院長は、ある意味、私などより
ずっと、Yさんとの関りが深かった。
 じつは「ポーラのクリニック」は、Yさんが残していった
「光」の部分なのである。

 下巻の「NPOさなぎ達の設立」を読んでくださった
山中院長が、このたび、感想をご自分のブログにアップ
してくださった。彼にとっても、この本が、ひとまずの
「総括」になった、とおっしゃっている。
 「横浜寿町 地域活動の社会史」と併せて、院長のブログも
読んでただけたらと願う。

 「さなぎ達とYさん」(ポーラのクリニック、ブログ)
https://ameblo.jp/3-14-5/


 
 

コメント一覧

yokohamaneko
酔華さん

 今度、その会話の内容を聞かせてくださいね。
 死してなお謎の残る人です。
酔華
本を買って、真っ先にこの部分から読み始めました!
「その男は山下公園周辺を根城にしていた」から始まる文章。
全部で10ページと短いですけど、
まるでミニ・ノンフィクションを読んでいるようで一気に読了しました。
このYさん、私も何度か話をしたことがあるので、
懐かしくいろいろ思い出しました。
ありがとうございました。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「雑記」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事