先週も今週も外出続きだった。
友人の個展など三ヵ所、取材三ヵ所、
遠方からの友人たちと一緒に食事、
母の見舞い、打ち合わせ、イベントなどなど。
その間、犬に噛まれるという事件まであった。
そんな時、昔、お世話になった方の訃報が届いた。
申し訳ないことに、お通夜にもお葬式にも伺えなかった。
御遺族に手紙と香典を郵送したが、心が痛んだ。
その方と知り合ったのは、私が30才になるか
ならないかの頃だった。
自分の不徳から、小さなアパートで一人暮らしを始め、
毎日が不安で、いや、不安というよりほとんど恐怖だった頃。
私はなにをしたいのか。
そもそも何者なのか。
人を傷つけ、自分も不幸になり、
いったいどこへ向かおうとしているのか。
それを自問自答する勇気すらなかった。
彼は私より15才くらい上だっただろうか。
都会生まれの都会育ち。
スタイリッシュで、料理を初めとして
何事にもこだわりがあった。
知識人で人脈も広かった。
30才になっても右往左往している私に
読むべき本や観るべき映画を教えてくれた。
いろんな店へも連れて行ってくれた。
なぜ親切にしてくれたのかわからない。
よるべない身で、教えられたことを、
なんとかして吸収しようとしている私が、
けなげに、いや、哀れに思えたのかもしれない。
「ぼくはホモ・セクシャルでSM癖があるんだよ」
と公言していたが、数年後、かなり年下ではあるが
普通の女性と結婚した。
ちょっと拍子抜けした。
もう十年くらい前から、病気で手術など受け
体がすっかり弱ったということは知っていた。
同時にだんだんと気力も萎え、私に掛かってくる電話は
「同年代がみんな死んじゃってねえ。寂しいんだよ。
心細いんだよ。女房にも邪険にされてて……」
という、昔の彼とはほど遠いものだった。
二ヶ月に一度くらい、いつも同じ泣き言の電話。
同情しながらも、正直、だんだんうとましく
思えてきたのも事実である。
人はとりかえしがつかなくなってから後悔する。
なぜもっとやさしい気持で、彼の愚痴を
受け止めてあげなかったのか。
私だって遠からずそうなるのに。
いや、もうなりつつある。
ごく簡単な単語すら出てこなくてあわてるし
新しいことをしようとか前へ進もうとかいう気持が
年毎に失われつつある。
たとえ前向きな気持が芽生えたとしても、
体力、気力、知能が伴ってくれない。
けど、そうなるからこそ、生への未練が少しずつ消え
死を歓迎するようになるのかもしれない。
だから抗わず、素直に老いていこう。
などと覚悟を決めたはずなのだが、
数日前、新聞に出ていた認知症予防の
サプリメントを買ってしまった。
効くのかね、ほんとに。
遅いかね、もう。
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友人の個展など三ヵ所、取材三ヵ所、
遠方からの友人たちと一緒に食事、
母の見舞い、打ち合わせ、イベントなどなど。
その間、犬に噛まれるという事件まであった。
そんな時、昔、お世話になった方の訃報が届いた。
申し訳ないことに、お通夜にもお葬式にも伺えなかった。
御遺族に手紙と香典を郵送したが、心が痛んだ。
その方と知り合ったのは、私が30才になるか
ならないかの頃だった。
自分の不徳から、小さなアパートで一人暮らしを始め、
毎日が不安で、いや、不安というよりほとんど恐怖だった頃。
私はなにをしたいのか。
そもそも何者なのか。
人を傷つけ、自分も不幸になり、
いったいどこへ向かおうとしているのか。
それを自問自答する勇気すらなかった。
彼は私より15才くらい上だっただろうか。
都会生まれの都会育ち。
スタイリッシュで、料理を初めとして
何事にもこだわりがあった。
知識人で人脈も広かった。
30才になっても右往左往している私に
読むべき本や観るべき映画を教えてくれた。
いろんな店へも連れて行ってくれた。
なぜ親切にしてくれたのかわからない。
よるべない身で、教えられたことを、
なんとかして吸収しようとしている私が、
けなげに、いや、哀れに思えたのかもしれない。
「ぼくはホモ・セクシャルでSM癖があるんだよ」
と公言していたが、数年後、かなり年下ではあるが
普通の女性と結婚した。
ちょっと拍子抜けした。
もう十年くらい前から、病気で手術など受け
体がすっかり弱ったということは知っていた。
同時にだんだんと気力も萎え、私に掛かってくる電話は
「同年代がみんな死んじゃってねえ。寂しいんだよ。
心細いんだよ。女房にも邪険にされてて……」
という、昔の彼とはほど遠いものだった。
二ヶ月に一度くらい、いつも同じ泣き言の電話。
同情しながらも、正直、だんだんうとましく
思えてきたのも事実である。
人はとりかえしがつかなくなってから後悔する。
なぜもっとやさしい気持で、彼の愚痴を
受け止めてあげなかったのか。
私だって遠からずそうなるのに。
いや、もうなりつつある。
ごく簡単な単語すら出てこなくてあわてるし
新しいことをしようとか前へ進もうとかいう気持が
年毎に失われつつある。
たとえ前向きな気持が芽生えたとしても、
体力、気力、知能が伴ってくれない。
けど、そうなるからこそ、生への未練が少しずつ消え
死を歓迎するようになるのかもしれない。
だから抗わず、素直に老いていこう。
などと覚悟を決めたはずなのだが、
数日前、新聞に出ていた認知症予防の
サプリメントを買ってしまった。
効くのかね、ほんとに。
遅いかね、もう。
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