冬桃ブログ

映画「ダイビング・ベル セウォル号の真実」

 17年ほど前にノンフィクションを書いた。
 取材を始めると、思いがけないことがいろいろ
出てきて、結果、当初考えていた内容と
かなり異なる本が出来上がった。
 いまもノンフィクションの取材をしているが、
やはり取材過程で予期せぬことが飛び出し、
大きく軌道修正しなければならなくなった。
 うわあ、どうしよう! 構成は? 結末は?
 と、あわて、悩んでいる最中なのだが、
それこそがノンフィクションの怖さであり、醍醐味でもある。

 韓国ドキュメンタリー映画「ダイビング・ベル」
の記者も監督も、おそらく、これとはまったく
異なる結末を想定し、撮影を始めたのではないだろうか。

 2014年、韓国の大型客船「セウォル号」が
転覆・沈没し、修学旅行中の高校生、捜索作業員を
含めて300人を超す死者を出した。
 乗客を放って船長がさっさと逃げ出したり、
規定量以上の積荷が原因ではないかと囁かれたりし、
謎も犠牲者も大きかった大事件だ。

 事故と救助過程、転覆原因などを記録し、
追求した内容なのだろうと想像して観に行ったのだが
いい意味で裏切られた。
 救助活動のまっただ中、「ダイビング・ベル」
と呼ばれる救助装置を投入するかしないか、
その結果がどうなったかだけを追い続けたものである。



 自分が開発した「ダイビング・ベル」を使えば
ダイバーが20時間、継続して海中作業ができると言い、
自費で装置を港へ運ぶ社長。
 いっこうに進まない政府の救助作業、さらには
ジャーナリズムの閉め出しに、疑問と怒りを覚え、
ダイビング・ベル投入の実現を後押しする
「告発ニュース」の記者、サンホ。
 が、海洋警察も先に入っている救助会社も
それに協力しようとはしない
 藁にもすがる思いで、この装置を使うべきだと、
海上警察トップに詰め寄る犠牲者家族達。

 とてもシンプルな筋立てなのだが、
リアルタイムで撮っているだけに、
サスペンスがかかる。
 果たしてダイビング・ベルは投入できるのだろうか。
 その一点で、まったく飽きさせない。
 
 まだ観ていない方達のためにネタバレはやめておく。
 思いがけない結果にもっともショックをうけたのは
アン・ヘリョン監督とサンホ記者ではないだろうか。
 サンホ記者はジャーナリストとしての枠を超えた
行動をしている。
 はたしてそれは良かったのか悪かったのか。
 救助が遅れに遅れた原因はどこにあるのか。
 政府はジャーナリズムに何を知られたくなかったのか。

 この映画はその年の釜山国際映画祭に招待されたものの、
犠牲者の家族会や釜山市長から「遺族を傷つける」
「公正を欠く」という抗議があり、上映が危ぶまれた。
 が、映画祭の実行委員長が上映を決行。
 結果、委員長は更迭され、裁判で有罪判決を受けた。

 映画の感想は一概に言えない。
 じつをいうと謎は深まるばかり。
 真実はいったいどこにあるのだろう。

 が、韓国社会の、おそらく日本社会でも
同じ事が言えるであろう、ある側面を
強く意識させられたことは確かだ。
 
 映画終了後、ロビーで友人達と
アン・ヘリョン監督を囲んで。
 販売しているポスターやTシャツの売り上げは、
釜山映画祭委員長の裁判費用に使われるそうだ。


 
 上映館 シネマ・ジャック&ベティー
http://www.jackandbetty.net/


 
 

 
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