どちらも自分の居場所だと思いたいのに、そう思う
資格がないような、なんとも心もとない不安にかられる。
子供の頃から放浪は運命だったが、なんでこんな
年齢になってまで、と、ありがたいのか怖いのか……。
「老後」という年齢になって隠居生活に入るとすれば、
絶対に海の近く、それも砂浜のある海でなければ……と
思い決めていた。
で、その年齢になったはいいが、体力も気力も落ち、
住み慣れた横浜を離れる勇気が出ない。
結果、漠然と思い描いていた地方の港町ではなく、
小さな砂浜の残る横浜郊外に越してきた。
しかし気が付けばニ拠点生活になり、一方は遠い長野の山中。
スケジュールのやりくりで、横浜の砂浜からも遠ざかっている。
「だけど、あなたはよく言ってたじゃないか。
アガサ・クリスティー作品に登場する探偵の一人が、
小さな村に住むお婆さんで、日がな一日、編み物を
しながらお婆さん仲間とお喋りして、平和な日々を
過ごしている。それを読んで、老後の自分も
こんなだったらいいなあ、と憧れてた……と」
と、ある人に言われた。
その探偵とはテレビや映画でもお馴染みになった
ミス・マープルのことだ。
確かにそう言ったかもしれないが、
根本的なところで大きな誤解がある。
ミス・マープルは結婚こそしていないが、
生まれ育ったセント・メアリ・ミード村で、確固たる
存在感を獲得している。
村でややこしい事件が起きると
DNA鑑定や監視カメラなんかなくても「そういえば、
昔、こういう人がいたわ」と、村暮らしの経験だけで
推理を展開し、ぴたりと犯人を突き止める。
ロンドン警視庁に甥がいるので、時には彼に請われて
ロンドンへ出向き、プロの刑事たちを尻目に、事件を解決する。
平和を脅かされることなく、刺激もあるという
理想的な日々。
小説ですからね、これは。
現実にはありえないでしょう。
科学捜査なんかろくに行われていない時代の創作だし。
だからS村であろうと横浜であろうと、その前は
引っ越し人生だった私が、ミス・マープルのように周囲から求められ、
なくてはならない存在として大切にされ、なおかつ、暮らしの
心配もなく、日がな一日、編み物やお喋りやジグソーパズル
(これは私の趣味)を楽しんでいられる立場にはなりえないのだ。
もちろん不可思議な事件を解決して、加賀町警察署あたりから
「ぜひともお出ましを!」と請われることもない。
最近、中身入りの名刺入れをなくした。
住所氏名、電話番号、メルアドなど個人情報満載の
名刺が入っているのでショックだったが、その事件すら
早くも迷宮入りになっている。
このたびは11月の半ばから約一カ月間、横浜に腰を据えていた。
映画館、ギャラリー、ミュージアム、まちあるき、仕事も少しして、
けっこう充実していた。
一番嬉しかったのは、ある事情で5年間も会えなかった
大切な人と会い、ゆっくり食事をし、思うさま話ができたこと。
それぞれ嵐を潜り抜けてきた身だから人間的に円熟し、
いまは平和な老後を楽しむ身……と言いたいところだが、
相変わらず二人とも、解決の見えない懊悩の
最中にいることを確かめ合うことになった。
まあ、現実というのはそんなものかもしれない。
さて、明日からはまたS村の日々。
暖かいというより暑い日さえあった横浜から
零下9度にもなるという環境へ。
昨年の暮れと正月もS村で過ごしたが、大事件が勃発した。
今年はどうかそんなことが起きませんように。
私はミス・マープルではないのだから。
年末の横浜中華街
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0d/c2/abdca00ba5532c49be081214839c3bf3.jpg)
なぜか修学旅行生の列が多かった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/68/cc358de65f637542fd88a953f9381fa2.jpg)
うちのそばにある小さな遊歩道。
手入れをし過ぎていないところが、
なんとも良い風情をかもしだしている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1f/3f/448b4f8d9038ed05751066bd992c57de.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/ed/34cb0dea5c3926c79483d2f7711c553d.jpg)