冬桃ブログ

彼はほんとに美しかった。

 私の好きなファッションブランドが、横浜のそごうデパートに入っていて、
正月の2日にいつもバーゲンを開催する。それに毎年出かけていた。
 あれは五年ほど前のこと。例年通り2日に、一人でデパートへ出かけていった。
 そのブランドは体型を隠してくれるデザインが多いので、中高年女性に人気がある。
 この時も、小さな店はおばさん達ですでに溢れていた。
 私も負けじとワゴンに手を突っ込んだその時、背後から「洋子さん!」と
声を掛けられた。
 振り向くと若い男性がこちらを見ていた。
 横浜の友達には「洋子さん」と名前で呼んでくれる人も多い。
 けど、こんな若い男の友達はいない。しかも明眸皓歯のイケメンだし……。
 ぽかんとしてたら、彼がにこりとして言った。
 「浩平です」
 「え、浩平くん? あ、あの? うわぁ、大きくなったねえ!」
 まじまじと見返してしまった。

 浩平くんは野毛のトンカツ屋「パリ一(いち)」の三男だ。
 子供の頃、野毛大道芝居に何度か出演した。
 なかでも忘れられないのは第五回「野毛版 文七元結野毛の花見」。
 彼は中学生だったが、澄んだ大きな目といい整った鼻筋といい、
うっとりするほどの美少年だった。
 これで化粧して女装したらどれほどきれいになるだろう、とみんなで大騒ぎ。
 彼はメイクをほどこされ、花魁を演じることになった。
 素直でシャイな浩平くんは、はしゃぐ大人達に、はにかみながらも
ちゃんと付き合ってくれた。

 思った通りとびきり美貌の花魁が出来上がった。
 華やかな打ち掛けをまとった彼が、路上の舞台に登場すると、
観客が歓声を上げた。台詞を喋り、男の子だとわかると、
その歓声はさらに大きくなった。

 その浩平くんが、大人になって目の前にいる。
 「幾つになったの?」
 「二十歳です」
 「きょうは誰かと一緒?」
 「叔母のお供なんです」
 彼の叔母さんも、私と同じ店が目的だったようだ。
 いい青年になったなあ、たくましい男になったなあ……と、
嬉しいような寂しいような気分で、その時、彼を見上げたものだ。

 それから数年後、彼のお父さんを取材してエッセイを書く機会があった。
 浩平くんがらみの内容である。

 「もしも、名前がガースなら」
http://www.noge.biz/guide/shop/3.html

 そしてまた数年たったいま、浩平くんの訃報が飛び込んできた。
 野毛坂の交差点で交通事故に遭い、意識不明のまま亡くなったという。
  25歳という若さだった。

 茫然としたまま、今日、お通夜に行ってきた。
 同年代くらいの若い人がたくさん来ていた。
 遺影の浩平くんは、やっぱり眩しいほどのイケメンだった。

 浩平くん、あの世へ行ったら、まず、大道芝居仲間のおじさんたちが
出迎えてくれるよ。大内順さんの拍子木を合図に、平岡正明さんは次郎長、
高秀元市長は閻魔大王、永登元次郎さんは一番気に入ってた芸者姿で。 
 
 

コメント一覧

冬桃
そうでしたね
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
 kojimaさん

 そうでしたよねえ。お父さんの目も同じでし
た。いまでも浩平くんの澄んだ目を思い出すた
び涙が出る。
 野毛の、いい時代を共有したんですものねえ。
kojima hiroshi
泣けた
おかーさんの何日か泣きはらした目が涙を誘いました。田井さんは元気になっただろうか
冬桃
今夜は涙雨です。
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
 濱のリリーさん

 大道芝居の仲間は何人も亡くなりましたが、
まさかこんな若い浩平くんまで……。
 泣きはらしたお父さんの大きな目は、浩平く
んそっくりでした。
 今度、一緒にパリ一へ行きましょうね。
 それが供養かもしれません。
濱のリリー
野毛で大道芸を始めた方のところで働いていて
息子さんのお世話をしていたとき、
パリ一のお子さん達がよく遊びに来ていました。
クリクリとした目の一番下だという可愛い男の子・・・
浩平クンというお名前だったんですね。

25歳の若さで・・・残念です。
ご冥福をお祈りいたしますm(__)m
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