冬桃ブログ

同行取材ー看取り

 
 簡易宿泊所の「看取り」に同行させていただいた。
 自分で通院するのが困難な患者さんの訪問診療。
 いわゆる在宅医療だ。
 中心はポーラのクリニック院長である山中先生。
 私の主治医でもある。

 ホームレス支援のNPOに関わっていたので
この町には何度も通った。
 昔は一般人が入れないほど荒々しい場所だったが
いまは生活保護受給の高齢者、障害者がほとんど。
 もうだいぶ前から福祉の町に変わった。
 最近はまた、いちだんと静かになったように感じる。



 市営住宅、職安などが入っていた「センター」が
建て替えられ、スマートなビルになった。
 もうすぐ内覧会だという。
 ここには無縁仏のためのお地蔵さんがあったのだが
いまどこに置いてあるのだろう。
 後日、確かめたい。



 3畳から5畳くらいの狭い部屋に
介護ベッド、車椅子、私物が置かれている。
 そこへ医師、看護師、記録係の事務方、ヘルパーなどが入り、
患者と対話しながら血圧や血糖値、体温を測り、
聴診器を当て、点滴、注射などの必要な処置を行う。
 狭い空間がひしめきあう。



 毎週、一度に10軒あまりの訪問診療。
 すがるように「痛み」を訴えられたり、
「来るなって言っただろう! ばかやろう!」
と怒鳴られたりしながら、看取りチームは
粛々と診療を行っていく。

 煙草のヤニで壁も窓もカーテンも
セピア色に染まった部屋がある。
 風邪気味だというので、この暑いさなか、
暖房が入っている部屋もある。
 ベッドにぐったりと横たわり、ほとんど動かず、
なにを聞かれても小さく首を振るだけの人もいる。

 私は隅っこでただただ身を縮め、
自分用のメモを取っている。
 それだけなのだが、すべて回り終えた頃には、
路上で倒れ込みかねないほどぐったり。
 
 十数年間、なんとなく関わってきたこの町。
 自分自身が単身高齢者になったいま、
より身近な存在になった。
 この町で倒れたら、それはそれで
「ご縁」かな、とも思う。

 酒も煙草も絶対、体に入れてはいけない患者さんがいる。
 本人はほとんどベッドだが、「友達」がそれを持ち込む。
 ついに先生は、その人のドアに貼り紙をした。



 だけどこの日の診療では、やさしく語りかけた。
「酒、飲んでもいいよ。煙草も吸っていいんだよ」。

 そういう時期が来たのだろう。
 貼り紙も剥がされるはず。
 「看取り」はハードで切ない仕事なのである。

 




 
 
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