出発までにどうしても会っておきたいと思い、町田のカンボジア料理店
「アンコール・トム」に出かけた。
セタリンはとても優秀な人で、36年前、文部省の国費留学生として
カンボジアのプノンペンから日本に留学してきた。
学芸大学の大学院を卒業。夏目漱石も森鴎外も原語ですらすら読む才媛だ。
だが彼女が大学生だった頃、カンボジアはポル・ポトの独裁政権になり、
虐殺の嵐が吹き荒れた。
日本にいたセタリンは難を逃れたが、彼女の親、きょうだい、親戚の多くが
無残に殺害された。
この虐殺に関しては、セタリンの妹である久郷ポンナレットさんの著書、
「色のない空」「虹色の空」(どちらも春秋社)を読んでいただきたい。
恐ろしい知らせを受け取るだけで、なすすべもなかったセタリンは、
当時、どんな気持で毎日を送っていたことか。
そのあたりのことを、私は本人から直接聞いたことはない。
勝手に想像することさえはばかられる。
その後、セタリンは町田にカンボジア料理店「アンコールトム」を開いた。
日本の大学で教鞭もとるようになった。
東南アジア文化支援プロジェクト「CAPSEA」の代表もつとめ
カンボジア女性の自立支援にいまも奔走している。
「アンコールトム」は国際交流の場となった。
そのかたわら「アンコール・ワットの青い空の下で」(てらいんく刊)
という小説を書き、故国カンボジアでシハヌーク国王文学賞に輝いた。
そして来月からはカンボジアの大学で「言語人類学」を教える。
こう書くと、ちょっと近寄りがたいかんじだが、そんなことはない。
セタリンはいつも可愛い服を着て、腕や耳にアクセサリーを
じゃらじゃらつけている。
スタイルが良くて顔立ちも華やかだから、とてもよく似合う。
「洋子さん、待ってたよぉ!」と、いつも満面の笑顔で迎えてくれる。
けらけらとよく笑い、話しているとほんとに楽しい。
「日本の男って、東南アジアの女が歩いてると、すぐ近づいてきて
あんた幾ら? って訊くのよね。もう何度も声掛けられた」
なんてことも笑いながら言う。
私なら睨みつけて唾でも吐いてやったかも。
この日は「東京ウォーカー」という雑誌の取材が入っていた。
チャーハン特集で「アンコールトム」が紹介されるという。
(インタビューと撮影の様子)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/42/c27c70fa9886d5f2f515d3064198662a.jpg)
カンボジアのある村で、老人からもらったという骨董品のカードで、
「SASTRA」というカンボジアの占いもしてくれた。
向かって右がセタリン。左はエッセイストの朴慶南さん。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7f/3a/6f8af37d557da9d13b36780ac7b12bec.jpg)
カンボジアの古語が記されているカード。占ってもらう人がこれを額に当て
細い棒で押し出すようにして一枚選ぶ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/86/d2b757268726043816d0b7859899fe1b.jpg)
「洋子さん、素晴らしいのが出たよ! これ、出した人、初めてだよ!」
私の行く手には、金銀財宝の他に家来まで大勢待っているそうだ。
ひゃあ、そうなる要因はなにも見当たらないけど、信じておこう。
来年はセタリンに案内してもらってアンコール・ワットを観にいこうかな。
彼女がカンボジアへ行っても、町田の「アンコールトム」は健在です。
食材も料理の仕方も一切手を抜いてない本格的カンボジア料理。
かけねなしにおいしいです!
「アンコール・トム」
http://www.angkor-thom.info/