今年は、神無月の巫女原作漫画連載&アニメ放映から、めでたく15周年になります。
10周年記念レビューをしたのが、ついこの前のことのように思えます。新規視聴者の方も、お懐かしファンの方にも嬉しい、アマゾンプライムビデオでの放映も目下継続中。令和のはじまりも、わたしたちはあのふたりへ恋に落ちるわけですね。
はいはい、お待ちどおさまでした。
やっと、今回から具体的にブックレットの中身に入ります。お持ちの方は、お手元にご用意ください。
「愛は太陽…愛は月…背中合わせに廻りゆく」──ブックレット第一巻目のポエムはこんなフレーズで締められています。第一話「常世の国」、第二話「重なる日月」を収録。
てはじめは、「キャラクター紹介」。
来栖川姫子、姫宮千歌音、大神ソウマ、大神カズキ、如月乙羽、早乙女真琴、そしてユキヒト。敵側でないサイド七人。あと、絵はないですがいじわる三人娘も。マコちゃんと乙羽さんのポージングがなかなか楽しそうです。
引っ込み思案だけど、気を許した相手にだけは太陽のような笑顔を見せる姫子。孤高のクールビューティーながら、姫子の前だけ本心を見せる千歌音。そして、爽やかイケメンの優等生なのに恋にはやや奥手なソウマ。このお話の基本三人を軸にひろがっていく人間模様は、「キャラクター相関図」にも図解されています。これ、すごくわかりやすいですけど、矢印の方向しだいでまったく情け容赦なくて笑ってしまいます。少女漫画とかで、この相関図、よくありますよね。ただ、この相関図、ソウマくんサイドからしたら重要人物が載ってはいないのですが。この図の中の矢印で示されていない関係も気になりますよね。たとえば、マコちゃんは宮様を尊敬していたに違いないけれど、千歌音ちゃんとしてはどう思っていたのか。最終話でソウマともども後を託せる相手と認めていたふしはあるけれど…。姫子以外の女子(男子も)には格別関心なかったというか、諍いが起こらないように贔屓もせずに接していそうですね。カズキ兄さんは、巫女ふたりの見守り役ではあるけれど、九話を見る限りでは、姫子に対してはなかなか手厳しい面もありそう。ユキヒトさんなんかは、他の女の子とつきあえば、みたいなよけいなアドバイスをしていましたね。彼は、潜在的にソウマの名誉彼女みたいなポジションなのでしょうけど(爆)。
「舞台設定」に登場するのは、天火明村、乙橘学園、大神神社、姫宮家お邸、真琴が入院した神屋楯大付属病院、天火駅。姫宮家の祖先のこととか、学園の沿革とか、大神神社の縁起なども触れられています。乙橘学園と村の伝承については、原作漫画の方が細かく設定されていますが、それが最後にストーリーの核になるわけでもなく、まあ裏設定みたいなもの。姫宮家は原作では「宮家の血筋を引く千年と続く名家」(出雲大社の千家氏がモデル?)とされていますが、このブックレットでは渡来人が祖であるとも匂わされていますね。伝奇もののアニメで、地元の旧家で歴史があって、というのはお馴染みパターンですが、このあたりの設定が気になります。というか、微妙に詳しい設定をつくっておくあたり、これを活かして続編とかつくらないのかな、と期待しちゃいますよね。ファンは妄想して遊べるから楽しいんですが。「乙橘」やら「神屋楯」やら微妙に神話に絡めて名づけていながら、実はそうでないあたりがなんとも…。
「『陽の巫女と月の巫女』の覚醒」コーナーは、巫女としても、オロチとしても、そして愛までも覚醒させてしまった、あるいは友情を眠らせてしまった、姫子・千歌音・ソウマの微妙な三角関係をあらためてクローズアップ。このブックレットのカット絵にはないですが、アニメ本編での、救命活動の千歌音ちゃんのどさくさまぎれのアレとか、馬で馳せ参じるとか、スライディングキャッチ名プレーとか、ロボットの灯台下暗しで隠れキッスとか、井戸の水浴びでスーパーヒロイン反省タイムとか、思い出しても名場面もりだくさんですね。ニヤニヤしっぱなしです。もう、そのあたりのムフフ💛エピソードは、スタッフの皆さんがアイデアぶっつけ大会だったそうです。うふふ。
大概の初見者がわかりづらいというか、度肝を抜かれたかのあの第一話。
説明不足にしたのは、もちろん制作者の意図。「植竹須美男の各話解説」を読めば、なぜ、そういうつくりにしたのかわかります。企画段階から、姫子と千歌音のキャラクターづくりにはかなり衷心したようですね。何パターンかの姫子と千歌音。これがのちの、神無月の巫女の名のつかない、しかし、続編というべきシリーズの素地となったのかもしれないですね。
マコちゃんが二話でいったん退場したのも、姫子の頼る先を減らすため。
オロチ衆もそうですが、もうすこし活躍してくれたらと思うキャラにも、それなりの動かし方があるもので。特定キャラの扱いが物足りないからといって、作品評価を下げてしまうのは早計であることを教えてくれる解説ですね。
いまのアニメのほとんどは、いかに人気の出る、商品として売れるキャラクターづくりをすることにかまけていて、続編だと下手したら人気で尺を食われてしまう現象もあるのですが…。あくまで、姫子・千歌音・ソウマの濃厚な三人の愛憎劇に焦点をしぼっていく姿勢が、この作品のかなり排他的な、断片的な愛好を生んでもいるような気がします。そうなんですよ、あくまで三人のお話なんです、これは。百合カップルだけ、ふたりだけのイザコザではない。
それにしても、脚本の植竹さん。
この一巻ブックレットにして、ロボも伝奇も設定も学園も、三人のドラマを揺らす素材で要素にしか過ぎないという断言をされていて。たしかにそうであるには違いないのですが、この文章がファンの間ではかなり独り歩きして、「神無月の巫女というアニメは、ロボットが空気」「百合だけ観ていればいい」という見方が一定数いまだにあるのではないかと感じます。ロボットをあとから持ってきたわけではなくて、もともとロボットものをやりたくてはじまった企画ではあるらしいですけどね。スタッフ総勢ロボ好きではあるので、もっと見せ場は欲しかったけれど…という含みもあります。ロボットものなんだけど、ガンダムシリーズなどみたいにロボ本気で動かせるほどではないけど、という謙虚さもある弁明ともいえますよね。でも、ロボ好きの人からもある程度評価は得ているんじゃないかなと思いますけど。
しかし、企画段階から苦心惨憺しながらも、楽しんで制作されたことが伺える貴重な文面ですね。この各話解説を読んだあとで、じっくりアニメをふりかえってみると、かなり物語の理解度が高まること請け合いです。
アニメ「神無月の巫女」ブックレットについて(まとめ)
月には誰も知らない朽ち果てた社があるの。全ては其処からはじまりました──。感動の全十二話を堪能したあと、再観賞用に、保存用にオススメのDVD。今回はその旧版DVD付録のオールカラーブックレットで、作品をふりかえります。
★★神無月の巫女&京四郎と永遠の空レビュー記事一覧★★
「神無月の巫女」と「京四郎と永遠の空」に関するレビュー記事の入口です。媒体ごとにジャンル分けしています。妄言多し。