陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「冬のタルト」(五)

2008-11-18 | 感想・二次創作──魔法少女リリカルなのは
頭をなでなでするわたしの手に、ヴィヴィオはいっぱいの笑顔になる。

「そっか、ヴィヴィオはよくがんばったね。じゃあ、ごほうびに、ちょっと早いけどママとデザート食べちゃおうか?」
「え、いいの?」
「いいの、いいの。でも、フェイトママにはひみつ。ね?」

指を唇のまえに立てて、ウィンクをする。ヴィヴィオもくすっと笑って、しぃーっのポーズを真似した。
夕ご飯前におやつを食べすぎると栄養を偏らせてしまうからいけないのは知っているし、ヴィヴィオにもそう躾けてある。それに、あのケーキはフェイトちゃんと三人で食卓を囲んでつつきたいものだった。ヴィヴィオがごねると、わたしは宥めようがなくて。いつもそんなとき、育児のキャリアでは一枚上手のフェイトちゃんの助けを借りていたから。
でも、たまにはね。わたしだって、もうママとして独り立ちしてる。フェイトちゃんが帰ってくる前に、あの計画を成功させて、ちょっといいとこ見せなきゃね。

ヴィヴィオはさっそく、ダイニングテーブルの上に二人分のランチョンマットを敷いて、お皿を置いた。わたしは型を外したケーキを三〇度くらいに切り分けて、お皿の上に滑らせる。ふだんの卵いろよりも鮮やかな色合いのケーキに、ヴィヴィオはふしぎそうに目をくりくりさせる。

「へぇ、あかいケーキなんだ」
「これはね、タルトっていう焼き菓子の一種なの。今日はね、ヴィヴィオのおめでたい日だから紅いタルトだね。お赤飯といっしょだよ」

偶然のこじつけだったけれど、ヴィヴィオの機嫌がいいのがもっけの幸い。もの珍しそうに観察していたヴィヴィオも、どうやら納得してくれたみたい。

今日の新作ケーキは名づけて「冬のタルト」、冬景色をイメージしたもの。北国の大地と見立てたやや紅めのクッキー生地のうえには、根雪のようにねっとりと塗られたクリームチーズ。それは、冬の終わりに陽の温かさにすこしだけ融けて厚みを増した雪を思わせる。そのうえに角切りの「あれ」は、レモンと蜂蜜で甘く味つけしてあって、パウダシュガーを粉雪のようにまぶす。こうすれば、見た目ドライフルーツかリンゴにしか思われない。

わたしは、マグカップにいつもの特製キャラメルミルクを注いだ。ほんとは甘いケーキのお供には、紅茶かコーヒーがいいんだけど。今日のは、ちょっと飲み物でごまかしておかなきゃね。ヴィヴィオの分の砂糖は多めにした。

わたしが手を洗って席に着くまで、ヴィヴィオはおとなしく両手を膝の上にちょこんとおいて、かしこまって待っていてくれた。ひとりで食事をさせることが多いと、子どもは作法が乱れてしまうと聞くけど、ヴィヴィオについては心配なさそうだ。喫茶店でもともと食卓のマナーにうるさかった高町家の家訓できたえた甲斐があったかな。

「ヴィヴィオ、お待たせ。じゃあ、召し上がれ」
「はーい。いただきま~す」



【魔法少女リリカルなのは二次創作小説「冬のタルト」(目次)】





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