世界は闇に閉ざされていた。暗雲に覆われた空に、収束する七色の珠の鈍い光でさえ眩しいほどに。その七つの珠は環をなして、ぐるりと一廻りする。撞球のように弾かれて、世界各所に散ってゆく。その立ち消えた円の中心からは、巨大にして面妖なるものが姿を現す。暗黒色の硬い鱗を思わせる鎧をまとっている。地を裂き、水を枯らし、黒い風を生じて冷たい炎を立てる。そのおぞましい声は、空を轟かせ、粉塵を巻き上げ、重みを失った礫を浮かせる。
鼓膜を割るほどの音と息詰まる力の存在に、藤袴の巫女装束の少女と黒髪の少年はしばし言葉を失っていたが…。
「あ、あれは…神龍!」「ちっがぁーうッ!!あれは日曜朝の恒例合体ロボだ!平成仮面ライダーマニアの俺でも、無理して古臭いロボに乗っていたのに、まさかそこまでやるのか!」
ソウマの言葉を完全無視した姫子。「早く、何かひとつお願いごとしないと、消えちゃう…ええっと、わたし、千歌音ちゃんにもう一度…」その傍らで深く息を吸い込んで、呼気とともに発せられた大音声。姫子の声を打ち消す間島名物の雄叫びが響く。
「姫子のぱ●●ぃーおくれ――――――――-ッ!!」
「ええっ?!そんな…ソウマ君ずるいよッ!」口を尖らせている姫子。
「俺にできることはせいぜい、それでハァハァすることだけだァあああ―――」意味もなく無駄に吼えるソウマ。理性の光が消えた瞳は紅く染まり、全身は青い鱗で覆われてゆく。男の欲望を邪神に向かって口にしたがために、オロチの本能に目覚めてしまったらしい。
ひらりと胡蝶のように空を舞い降りる純白のモノ。それを掌に収めようとしたその時、
グサッ!
オロチの紋章が浮かぶ額に矢が突き刺さる。瞬時にして間抜けな石像と化すソウマ。「物言わぬ石となりなさい、大神ソウマ」「千歌音ちゃん、逢いたかったよ!!」
ソウマ像に見向きもせず、姫子は黒髪の緋袴の巫女に、抱きつく。胸元に感じる姫子の温かさに、千歌音の顔は険しさを解く。「ウフフ…姫子にパン●ンや、ぱふ●ふしていいのは私だけ。さあ、姫子、月の社で二人だけの夜の武闘会をはじまめしょうか」「ええっ…ちょっと、千歌音ちゃん、やだぁ…」顔を赤らめつつも、満更でもなさそうな姫子だった。
後に取り残された邪神ヤマタノオロチと剣神アメノムラクモは…――
「「巫女(おまえ)ら、ちゃんと儀式(しごと)やれよッ!!」」
【後記】
あの11話のシーンがDBのあれに見える…ワケないでしょっ!亀仙人が鼻血垂らしながら手を動かすシーン(とか、いろいろ)、幼い時分の私には刺激的でした。