陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

ふるさと納税ウォーズ ~暗黒自治体の抗争と政府の逆襲~

2019-04-14 | 政治・経済・産業・社会・法務

ちょいと、そこの皆さま、お聞きになりまして?
自治体間の過熱しすぎた返礼品競争にとうとう歯止めが──ですって。
そうなんです。
ふるさと納税制度見直しをふくむ改正地方税法が成立し、この6月からは、ふるさと納税利用できる自治体は、総務相が指定することになります。

ふるさと納税は、寄付金額に応じて所得税や住民税が割り引かれるしくみ。
寄付者は一定所得者以上であり、上限はあるものの、金持ち優遇策とも言われます。今年、大阪府のとある市がアマゾンギフト券を返礼品として、えげつなく昨年度360億円を集めたことが批判されました。寄付金額に近い金券を配ることは、そもそも、地場産品の購入促進と地域の応援という、ふるさと納税の趣旨におおいに反しています。寄付者からすれば、なんでも利用できる金券をくれるのは助かりますが、米国企業の商品券って…。せめて図書券とか、ビール券とか温泉入浴チケットとかにすればいいのに。

今回の法改正では、返礼品の費用は寄付金額の3割以内としたかねてからの通知に罰則を設けることにしたものです。違反すれば、自治体は制度利用できない。通知無視して豪華な返礼品で多額の寄付を集めまくって自治体は、特別交付税を減額処分に。金儲けに目がくらんで暗黒面におちた自治体に、とうとう政府の逆襲。これは当然のことでしょう。通知にしたがった自治体からも、ふるさと納税を利用しない国民からも、非難されてもしかたがないのですからね。抜けがけはあきまへんで。

あわせて、返礼品を当該自治体のみならず、同一都道府県内の地場産品から可能とするなどの条件の緩和もあります。そもそも、これといった地元の名産品がない自治体だってありますから、この配慮は嬉しい。お得感などを過剰にアピールする宣伝も禁じられます。カタログ通販みたいな感覚で、安易に利用され過ぎていたきらいがあります。

このふるさと納税の返礼品レースについては、数年前から取沙汰されており。
私も過去記事で批判したものの、制度があまりよく理解できていなかったふしがあります。そこで。知り合いの税理士さんに勧められて、昨年、お試しで他県のお米を何回か購入してみました。ふるさと納税の寄付受付ができるサイトがあり、該当自治体への応援メッセージや返礼品の感想が書き込めるのですね。寄付金の用途の指定をもとめる記入欄もありました。2箇月ぐらいして、自治体からはかなりていねいな手紙が、寄付金受領証明書ともども届き、なかなか悪くないなとも思いました。九州と関東地方からの取り寄せでしたが、産地によって、米に粘り気や甘さなどの差があることを、はじめて実感しました。

しかし、たかだか数万円の寄付額とはいいつつ、その分、居住地への納税額は減ってしまいます。しかも、数万円のふるさと納税寄付でも、しょせんは税額控除ではなく所得控除なので、控除額は納税者個々人の所得税率によります。自営業者で年度内に経費にできるものが少なく、生活費分で節税できるのならばいいといえばいいのですが。私の場合、コメの産地にこだわりはないので、ふつうにスーパーで買ってもいいかなとしか、やはり思えませんでした。地元から人口流出が激しいので、罪悪感があります。いまの居住地の政策すら理解してもいないのに、名前も知らずにいたよその自治体の行政に口出しするのも変だなと。自分の地元が大嫌いとか、すでに多額の納税をしているのに、役人が気に入らねえ!というご不満のあるかたは、積極的にご利用なさってもよろしいかもしれませんが。どうせ寄付するなら、税額控除ができる団体などへの寄付金控除のほうがマシな気がします。これなら、地元の団体でもいいわけでしょうし。

しかも、このふるさと納税の過剰利用者にも、税金がかかる恐れもあります。
返礼品があまりに高額と見なされると、一時所得あつかいとなり、課税されてしまうのです。例えば、その年、たまたま生命保険の一時金、損害保険の満期返戻金などあって、さらに数万の価額相当額とみなされる返礼品(金券や高額の商品)が送られてきたとすると、加算して一時所得の特別控除額50万円を超えてしまえば、課税されてしまいます。下手したら、過去七年分にわたって追徴課税される恐れもありますよね。今後、こういうケースも増えるということです。

ふるさと納税は、所得税率の高い人ほど税逃れができる金持ち優遇策です。
同じ3万円ほどのふるさと納税であっても、所得税率1割の納税者が取り戻せるのは3000円に対し、税率4割ですと1万2,000円。この消費税10月に増税される消費税が全国民、所得無関係に公平に負担するものであるのを考えれば、このたびのふるさと納税ヒートアップ打開策はやむをえないものです。

しかし、都会の高所得者が地方振興のために税金移転をするには、合法的なシステムではありますよね。現役世代は都会にいるけれど、高齢の両親は郷土の自治体の後期高齢者医療保険組合や介護保険制度にお世話になっているわけです。空き家や空き地のインフラ管理も、その自治体の仕事。ほんらいは、地方出身者が育ててくれた故郷や、お世話になった自治体のために自主的に応援するものとして機能すればよかったのですが…。

地方と都会との格差は激しく、国会議員の定数削減により、ますます辺境地の声は届きにくくなっています。
自治体が各個性ゆたかな政策理念にのっとり、地元品や観光資源のPRで発展を望むのはよいことですが、けっきょく日本人労働者も減り、海外からの出稼ぎに頼らざるを得ない状況で、国内で少ないパイを奪い合っているのは、見るに堪えかねないですね。私の同級生でも地元に貢献したいとか口先でいいながら、けっきょく東京に出ていってしまったひともいますしね…。公共交通機関が発達していないので、自動車維持費が馬鹿にならず、現役世代がすくないので各自治体の健康保険組合や協会被保険者の負担が年々増しています。都会人の胃袋を満たす食料品は地方産なのに、働き手を奪われて不公平という声もありますからね…。まあ、ひとを大切にしてこなかった田舎も悪いんですけどね…。

地方統一選挙の前半戦がおわり、選挙カーの街宣もなくなって静かになったのはよいことです。
以前のように、あまり地方自治体の首長がタッグを組んで国に向かう気風が薄らいできた感じがしますね。ご当地の首長は可もなく不可もなくだからいいのだけど、最近は市町村や都道府県のトップも変わった人が多いですね。国会議員さんも大臣さんも、またしても失言続きなのではありますが…。



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