陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「クロエ」

2014-10-03 | 映画──社会派・青春・恋愛
2001年の日本映画「クロエ」は、奇病に冒された女性と、プラネタリウムで働く男性との純愛物語。ちなみに同名で娼婦をあつかった2009年作の洋画がありますが、本作とは無関係です。

星が大好きでプラネタリウムで働く高太郎は、神秘的な雰囲気をもつ女性クロエと巡り逢い、友人たちに祝福されて結婚する。
しかし、その後、クロエが意識を失い倒れてしまう。検査の結果、彼女の肺には、花の蕾みらしき影が。手術で摘出されたのは睡蓮の蕾。しかし術後もまた新しい蕾が成長をつづけ、クロエを蝕みつづける。高太郎は意外な治療法を見出すが…。

ひと言で言えば、病身の妻をささえる男の献身がひたすら描かれます。
妻に優しいだけでなく、借金まみれで風采のあがらない生活を送る友人カップルにすら、あれこれと便宜を図る主人公。プラネタリウムに現れる迷子の少年を庇ったばかりに、窮地に陥ってしまいます。ひたすら優しいばかりに、周囲の無理解に傷ついて追いつめられていく。生活費に困り新しい仕事に就くも、クロエと過ごす貴重な時間が奪われていくのです。

設定としては奇抜だけれど、筋書きとしては少々もの足りないところ。
病気を美化していますけれど、けっきょく、高額な治療費を課されるがん患者とその家族としては、当たり前の事情でもあります。

光の角度にこだわり、映像としてはたしかに美しさを追求していますけれど、格別目を見張るほどの演出があるというわけでもない。胸にずしんと落ちてくるものはないですが、主軸にあるのはあっさりした恋愛なので安心して観れる映画ですね。

ただし塚本晋也演じるあの自堕落な友人・英助とかオカマのバーの主人とか、カリスマ・アーティストは要らない部分に感じました。労働が嫌だとか、神様は信じられないとか、脚本家の主張の代弁のために置いている役どころなのでしょうが、説得力ないです。俳優も魅力的ではないし。主役のふたりの恋愛の儚さを引き立てるために、あえて現実の醜さを背負わせているのでしょうが、中途半端すぎる。英助とその恋人・日出実は後半には物語の影となっていくのですが、だからこそ、主役二人の結末はそれなりに明るい終わり方を迎えて欲しいと思われたのです。

監督は利重剛。
本作映画の主演は永瀬正敏とともさかりえ。ともさかは髪が長い方がよかったような。でも、ふつうの女性っぽさが良く出ていますね。永瀬正敏は「私立探偵濱マイク」というドラマでのアナーキーな印象があったせいか、こういう地味目の青年をうまく演じれていたのは意外でした。

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この映画は、フランスの作家ポリス・ヴィアンの小説『日々の泡』に触発されて脚本を書き下ろしたもの。さきほど、不要だと申し上げた自堕落な友人だとかカリスマアーティストはその原案にも登場します。この『日々の泡』はなかなかの美文ですが、やや読みこなすのが難解ですよね。私が読んだのが古い訳だったせいもあるのでしょうが。『うたかたの日々』と改題されて新訳も出ています。


(2011年8月15日)

クロエ - goo 映画

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