陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

誉田哲也の小説『武士道シックスティーン』

2014-10-02 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
スポーツ根性もの、略してスポ根と言えばたいがいは少年漫画の分野。
「明日のジョー」とか「巨人の星」とか…まあ、ちょっとネタが古過ぎるのですが、とにかく生死を極めないスポーツでは、終生切磋琢磨し合い競い合う好敵手(ライバル)というのが存在します。好敵手というのは、ただの敵とは違って、その相手と闘うことが喜びなのであって、居なくなると寂しくなる存在でもあるそうな。歴史上、話題になった名試合というのは、好敵手がしのぎを削る場面が多いですね。

小説『武士道シックスティーン』は、誉田哲也による、女子校の剣道部を舞台にした青春スポーツ小説。新渡戸稲造の著作と女子高生向けのファッション雑誌のタイトルがドッキングしたこの題名。まあ、まさにそんな感じの作風と言ってもいいのでは。
最近はクラブ活動ものの一般文芸が目立つような気がしますが、この著者さんはもともと警察小説の書き手だったそうで。タイトルがラノベっぽいので侮っていましたが、文章がテンポよくて、剣道の試合のシーンも臨場感があります。実際の女子校の剣道部に取材した成果が活かされてるせいなのか。


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宮本武蔵に私淑する心までサムライ気質の磯山香織は、実力派エリートの中学生ながら、市内の大会でまったく無名の女子に惨敗してしまう。その相手・甲本早苗を追って名門の私立女子高に進学し、再戦果たそうとするものの、早苗はなんと剣道歴が浅く、レギュラーにもなれなないほどの腕前だった。剣道に対して本気になれない早苗に、香織は全力でぶつかろうとするが…。

剣豪を気どる香織がたまに老成した台詞を吐くのが気にかかるが、突っ込みたくなるような言動がおもしろい。飄々としている早苗のマイペースっぷりもいい。少女どうしの交友を描いたものであるが、家族の再生物語でもあるところがツボ。


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この第一作が好評だったので、高校二年生編の続編がつくられたのが『武士道セブンティーン』。前作のラストで離ればなれになったヒロイン二人が、それぞれの身近で抱える問題をクリアしつつ、成長して試合であいまみえることになります。


武士道エイティーン (文春文庫)
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個人的にはこの「武士道シリーズ」最終作の高三編『武士道エイティーン』がおすすめ。香織と早苗、それぞれが自分たちの高校での部をひっぱる中核となり、個人としての戦いよりも組織としての勝利を求める姿を描いています。全国大会でふたたび竹刀をまじえる瞬間の熱さといったら。
じつはこの第三作は、脇役のサイドストーリーが入れ子構造で挿入される構成になっていまして、本編の女子高生ふうのユルい感じと微妙にマッチしているのがいいですね。

このヒロインふたり、誰かに似てるなと思ったら、そうそう「魔法少女リリカルなのは」第一期のなのはとフェイトの関係なんですよね。百合っぽいというより、あくまで少女どうしの友情といった程度で。

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