2001年の映画「DUST ダスト」は、語っている今と語られた過去、ふたつの次元が行き来しあうふしぎな味わいのあるストーリー。
ひとりの女を巡っての兄弟の相克を描いたものですが、この構成のためにおもしろみが増しているといえるでしょう。
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2000年のニューヨーク。
金策に困って空き巣に入った黒人の青年エッジは、部屋の住人の老女アンジェラに逆に銃で脅される。無理矢理聞かされたのは、百年前にアメリカ西部から、”ヨーロッパの火薬庫”こと、バルカン半島へ渡った兄弟の話だった。
兄ルークは賞金稼ぎとなって、血なまぐさいバルカン半島へ。しかし、彼を不意に襲ったのは、兄を追ってやってきた弟のイライジャだった。アウトローな兄と、聖書に詳しく正義感のある弟、という組み合わせ。
しかし、ここに出てくる人はみな、一癖二癖ありそう。
アンジェラが語りおえないうちに倒れてしまい、金貨の在処と引き換えに話の続きに耳をかたむけるエッジ。しかし、彼はいつしか欲得からではなく、その話そのものに魅了され、そして病床に横たわるアンジェラに家族の情めいた愛情を感じはじめる。
現在も過去も、凄絶な流血シーンが多くけっしてロマンチックなものではないけれど、のちにストリーテラーとなってしまう青年と老婆の交流のおかげで、ラストの悲劇を超えて、生きのびるいのちが優しい気持ちで包まれている印象を抱いてしまう。
そして、この兄弟と、アンジェラとの関係も、ラストまで明かされないというミステリーも楽しみのひとつ。
バルカン半島は、多数の民族が接する地点で、ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦やコソボ紛争など現在でも、内紛が絶えない。
多様な民族が本作いたるところに現れるのは、マケドニア生まれの監督の民族性ゆえか。
肌の色や言葉、宗教は違っても、最後に落ち着くところは一握の灰。エッジがまるで自分の肉親のようにたいせつに遺灰を抱えるシーン、こころ温まりますね。
監督は「ビフォア・ザ・レイン」でヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いたミルチョ・マンチェフスキ。
主演はルーク役に「ロード・オブ・ザ・リング」のデイヴィッド・ウェンハム。イライジャ役に、「恋に落ちたシィクスピア」の主演ジョゼフ・ファインズ。
(2009年12月7日視聴)