陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「日陰の花と陽ざかりの階段」(十二)

2008-09-17 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
「ふふ、いかにもあの子らしい話ね」

真琴から一部始終──もちろん最後のキスは抜きで──を聞かされた千歌音は、いつになく朗らかにくすくす笑いを洩らしていた。

「姫子ってさ、よく朝になってベッドからずり落ちてたりすることあるんだよね。それで意外や意外、逆さになるの慣れてたみたいだね。低血圧のひとが逆さ立ちしてなおすって話を聞いたことあるけど」
「そうなのかしら?姫宮邸のベッドではそんなことはないのだけど。いっしょに寝ても、そんなに寝相が悪いとは思えな……」

ハッとなって、口をつぐんだがもう遅い。
動揺する千歌音を、ぬかるんだ笑いを浮かべた真琴が興味津々の目つきで追いこんでいる。

「おやおや~?それは聞き捨てなりませんね。来栖川姫子サンは宮様と毎晩いっしょにおねんねしてるんですか~ぁ?」
「誤解しないでちょうだい。私と姫子はいまは…」
「ハイハイ。皆までいわずともわかっておりますよ。この早乙女真琴、これでも口は堅いオンナです。安心してくださいな。姫宮千歌音さんと来栖川姫子さんが、夜な夜なアレなことやコレなことに興じているなんて、言いふらしたりはしません。おふたりのヒミツは、あたしだけの胸にかたくかたくしまっておきますよ。あ、でも口止め料ぐらいはいただきたいなっと」

突然、千歌音は鍛えられた少女に後ろから抱きつかれた。

「早乙女さん…?」
「すみませんねぇ~、抱き心地の悪い枕で。あたし、姫子みたいに体、やわらかくないから」
「ふふ。そうね。姫子はぬいぐるみを抱くよりも気持ちのいい夢をみせてくれる枕なの」

ここまできたら、隠しとおすいわれもない。勝ち誇ったように睦まじさを披露する千歌音に嫌みさはないけれど、真琴もからかいたくはなる。

「あー、うらやましー。宮様はもう、毎日姫子のこと、可愛がってて離さないんだろーなぁ。いいなー、いいなー、ちくしょー。姫子の抱擁を分けてくれー」

真琴はひっきりなしに密着してくる。千歌音は訪問着という出で立ちのため、思うようには身動きがとれない。

「こ、こら、やめなさい!調子にのって、なにを…」
「ははは。宮様って、お尻は引き締まっていい形なんだけど、そんなに胸がでっかくちゃ、陸上競技には向かないねー」
「ええ。早乙女さんには敵わないと思っているわ。きっと勝負しても負けるでしょうね」

姫子のことについても、私は彼女に負けているのかもしれない。もし私が姫子を傷つけたら、姫子はいちばんにこの健康な笑顔の持ち主の腕を頼るだろう。いっそ、そのほうが姫子の幸せなのかもしれない。彼女と姫子との間には過酷な運命はないのだから…。

「おやおや、宮様が負け惜しみいうなんて似合わないな」

頬をつんつん、と指でつついたり、黒髪をくるくると指先で巻いてもてあそんでみたり。
くすぐったい仕種にも、千歌音は嫌とはいえない。自分がいないあいだ、姫子はこのひとに抱きとめられていたのかと思うけれど、ふしぎと悔しい気持ちは涌かないのだった。逆に思う。姫子は私に抱かれているときに、真琴が抱いてくれたような心地よさを感じていてくれたのだろうか、と。



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