憲法記念日あたりかの日記記事にも書きましたが。
この上半期はNHKの朝ドラ「虎に翼」にハマっていました。大河ドラマの「光る君へ」ともども全話欠かさず視聴、しかも再放送までチェック。NHKは土曜スタジオパークや朝イチでもドラマ出演者のゲストの特集が組まれるので、それも見逃さない。民放(とくに日テレ系)のドラマも観てはいましたが、これだけ熱意をもってテレビドラマにくぎ付けになったのははじめてだったのかもしれませんね。
日本人女性初の判事にして裁判所所長になった三淵嘉子を題材に、戦前からの差別と闘った女性たちを描いた連続テレビ小説。大正時代、曲がったことが嫌いで、なにかつけ「はて?」が口ぐせの猪爪寅子(いのつめともこ)が、法曹界のキャリアを築くストーリーで、働く女性ならば憧れる存在…かと思いきや、一筋縄ではいかない。
この主演女優の 伊藤沙莉さんの声、インパクトあったのですが、以前放映していた「いいね、光源氏くん」というタイムスリップラブコメの主演だった人だったんですね。
個人的な印象としては、女学生時代から戦時中までの展開が神がかっていました。
とくに仲野太賀(青春群像劇ドラマによく出てた中野英雄氏の子息らしい)演じる主人公の夫の優三さんとの別れ。最初は試験に落ちてばかりのギャグキャラっぽいのですが、土壇場で居候先の猪爪家を支える根性を見せたり、なかなか頼もしい。
戦後の家庭裁判所編あたりから、とても暑苦しい上司がしゃしゃり出て振り回されたり、転勤先の新潟でも同期との再会を喜んだのもつかの間、サイコパスすぎる女子高生がいたり、なのにあっさり退場していたり。やさぐれ浮浪児が家族入りして暴れるのかと思えばそうでもなく、母子家庭になった花江ちゃん世帯ともども戦後を生き抜いたものの、一時期は寅子の出世と増長にともなって家族関係がぎくしゃく。
とくに娘の優未との距離感は、優秀過ぎた親をもった子の苦悩として、思い当たるふしがある方も多そうですね。
仕事ばかりの専念しすぎて、家庭をおろそかにしてしまう。夫婦でもよくあることですよね。
最高裁判所長官の子息で実在の人物をモデルにした星航一と再婚したエピソードも実話準拠なのですが。これが事実婚だったり、介護問題を匂わせたり、その星家の連れ子たちともギスギスしたり。あげく、義理の娘がうさんくさいアーティストと結婚するわ、息子は裁判官やめて家具職人になるわ、しまいに優未は大学院を中退して家事手伝いっぽい立ち位置になるわで、腑に落ちない落としどころ。実際の三淵さんの御子息は生物学者として業績を残されているのに、なぜ、こういった扱いにしてしまったのでしょうかね。
そのいっぽうで、寅子の同期たちは戦後になって軽々と司法試験に合格できたりするご都合主義はあるものの、みな健在で戦後には同窓会を開くまでに。一時期友情が破綻した山田よねや轟も弁護士として重要な裁判に参加したりなどの活躍を見せます。いじめっ子役の同期小橋(仇名は発芽玄米(笑))が長ずるにつれ改心したのも好ポイント。
ただ、後半のおもな法廷劇といえば原爆裁判ぐらいなもので、裁判官なのに、ほとんど主人公のホームドラマに時間がさかれてしまったのは不満が残るところでしょう。
梅子さんの相続問題も、スパーンと家を飛び出して片付いたけれども、可愛がった三男坊にまで裏切られるとかショックこのうえないですし。前半部ではやたら、おにぎりだけふるまっているポジションにされたのも、当時のお母さん役の押し付けの犠牲者のように思えてなりません。
最終回は松山ケンイチ扮する上司をやりこめて、女性だって男性に負けず劣らず活躍できるのだ、と意思表示したわけですが。複数人でひとりを睨みつけてしまう形になったのが、いささか後味が悪く思えます。
穂高先生と寅子との、キャリア中断をめぐっての悶着も後味が悪かったですね。
教育者は女性の自立を!社会進出を! とうたっても、女性が望みそうなデスクワークあるいはケアワークは低賃金で、しかも高等教育がすすめる知的労働ばかりが尊ばれると、ライフライン維持に必要な体力のいる仕事の人手(農林水産業や建設業など)が足りなくなります。NHKの朝ドラは女性の自立を押し出したいのならば、こういう分野にスポットがあたるような職業女性を主人公にすべきでしょう。
たしかに働く女性としては溜飲がさがるものの、ポリコレがすぎて胸やけがする、というきらいがないわけではありません。男尊女卑をいいすぎると、今度は弱者男性の救済がどうたら、というカウンターパンチがあるわけですね。
もうすこし裁判シーンで描いてほしい判例もあっただろうし、被告人と原告とのイザコザとか、そういったリーガルサスペンスっぽい展開を期待していたのですが、そこは期待外れでした。あと、女性が描く話にありがちなんですが、男性がやはりどこか少女漫画の王子様ぽい方が多い。
実際、現在でも多くの女性は結婚や出産のために生き方を変えざるケースも多く、寅子のようなキャリアへの復活できた幸運は少ないでしょう。
寅子たちの世代のアグレッシブな生き方には励まされるものの、その子の世代の生き方には何となく共感できない。
ただ、優未は職業人としては大成できはしなかったが、寅子がつないだ人の縁によって救われているところがあって、親が子に、老人が若者に残せるものは財産や才能よりも、そうした「よりどころ」なのかもしれない、そんなことが言いたかったドラマなのかな、という気がしました。
最終週ではあの因縁の不気味な女子高生の末路が明かされて、次世代同士で理解しあうことがほのめかされているのですが。法律をつかうのは特定の資格者が間違った人をコテンパンにやっつけて打ちのめす、のではなくて。誰でもそれにアクセスでき、困った人に手を差し伸べる優しさの手がかりとしてである、というメッセージだったのかもしれません。
なお、このドラマを観てよかったのは。
はじめてお見かけするのに、かなりの演技をされる実力派の俳優さんたちをたくさん発掘できたことですね。森田望智さんは夜ドラの「作りたい女と食べたい女」の同僚女性役でもインパクトありましたけど。インタビュー番組では素顔と異なる人も多くて(土居志央梨さんの笑顔が…)、ギャップ萌えしたくなりそう。あと、ツイッターでは二次絵もたくさん楽しめたりも。
次作の「おむすび」は現代劇のギャルのお話なので、今後は朝ドラ枠の時間帯をテレビに囚われずに有効活用できそうです。
ロスというほどではないけれども、もし前半部の再放送があったら見たいかもしれません。「花子とアン」の再放送もありましたしね。
NHKのドラマは火曜夜の「正直不動産」や「燕は戻ってこない」「家族だから愛したんじゃなくて愛したのが家族だった」などを観ていましたが、残り二者は結構攻めてる内容でしたね。
あとトラつばの田中真弓さんもそうですが、声優さんがかなりドラマ出演されているのも驚きです。
毎回耳コピできるぐらい聞きなれていた米津玄師さんの主題歌「さよーなら、またいつか」が聞けない朝になったのは残念です。やはりドラマは昭和初期ぐらいまでの時代がかった作風のほうが好きなんですね。今年の残りの期待は大河ドラマに集中していくことにします。
(2024.10.12)