陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

小説『マリア様がみてる─イン・ライブラリー─』

2024-09-21 | 感想・二次創作──マリア様がみてる

マリみてシリーズ短編集のなかでも、とくに好きなのが、この「イン ライブラリー」。
もともとオリキャラ中心の外伝話が好きでないので短編集は再読しないほうですが。この巻だけは何回か読み返した覚えがあります。図書館で働いた経験があるので、本がテーマというのが、これまたツボに。何回か読んでいてわりとエピソード覚えていたのに、レビューがまだだったのが自分では意外でした。

今回の前書きは「本に生まれたからには、その子たちは、誰かに読まれることを待ち続けている」──この出だしからしてメルヘン要素漂う。マリみてはかなり現実的なお話なのですけども、著者の今野緒雪先生はそもそもデビュー作からしてファンタジー畑ご出身。その想像力がいかんなく発揮された一冊です。

時期は学園祭のあと、そう「特別ではないただの一日」直後。
薔薇の館でうたた寝をしてしまった福沢祐巳。目覚めると、お姉さまの祥子からの書き置きが。瞳子含めた外野を巻き込んで、学内で行方不明になった祥子を探すことになるが…?

もともとは雑誌コバルト誌2004年に発表した数話に書き下ろしを加えたものだそう。
では、各話の感想をさらりと。ネタバレがありますので、未読の方要注意!


・静かなる夜のまぼろし
出ました、蟹名静嬢の主人公回。この人が出る回って名作が多いですよね。マッチ売りの少女になぞらえて、部屋でマッチを擦る静。現れたのは、佐藤聖の幻影だったが…。彼女の一年生時代の回想を挟んで、あのロサ・カニーナ騒動の前日譚にあたるエピソード。「この世界からいなくなるとき、ほほえんでいられるためには何が必要なのだろうか?」という問いかけが重いですね。静は学園から決別するためのけじめとして行動を起こしましたけども、もし姉妹になれていたら、留学の夢を諦めていたのでしょうか? 静の目から眺めた、祐巳や由乃、そして志摩子のすがたはけっして意地悪なものではなく、なおさらそれだけに、彼女の片想いが悲しいわけで。

・ジョアナ
何だろう、このタイトルは? 若草物語の四女ベスのお気に入り人形の名前らしいです。学園祭時に演劇部で生じた瞳子のトラブルを掘り下げたもの。マリみてって、たまに、こういう肝が冷えそうな女同士のイザコザ回がありますよね。瞳子は自分をエイミーに、お節介な祐巳をベスに見立てているわけですが、あいにく「若草」を読んだことがないので、どういうアナロジーかわかりません。でも、「よく寝て、よく食べて、ストレスは溜め込まない」「愚痴は私のところに」と言えちゃう祐巳はやはり頼もしいな。そして、この瞳子のツンデレっぷり、ウフフ(微笑)

・チョコレートコート
タイトルから察する甘い話では全然なくて。おそらく「黄薔薇革命」か「レイニーブルー」かあたりで語られた、先輩が後輩にふたまたをかけて姉妹を解消したという、その三人の過去話。新聞部の築山三奈子女史が関わっているという。なんというか、かなり百合度が高めな、絶妙なドロドロ感が発生しそうな一歩手前で終わっていますけども、正直、この三人の誰が悪いとも言えない状況ですね。女だけの三角関係って、男女絡みよりもタチが悪そう…。電車通学で同じ車両で…ってありがちな出会いですけども、人間って、言葉も交わさないうちからなぜか好感を募らせてしまうことってありますよね、不思議ですね。

・桜組伝説
二年だけに桜組があり、他学年には李組があるのはなぜか? その謎を明かすべく、桜組が学園祭で企画した喫茶店で、クラス由来の伝説を集めた冊子を編集することに。その中身が独立したドラマになっているわけですが、ファンタジー色あふれる幻想譚もあるいっぽうで。「桜の埋葬」は、明治大正期の女学生時代の親友の悲劇。梶井基次郎の「桜の樹の下には」が下敷きになっているとは思いますが。「死んでしまって会えないことと、生きているのに会えないことは、絶対的に違うのだ」という言葉が重いですね。でも、ラストの締めの先生たちが軽くしてくれます。学園七不思議みたいなもんでしょうかね。

・図書館の本
なんとなんと、祐巳と祥子の母親世代のふれあい回。「さーこさま」こと清子小母様の若かりし頃と、祐巳ママの出会いはなんと温室。このふたり、二世代揃って、いわくつきな邂逅してるわけですね。でも、あくまでも憧れのひとにとどまっていたわけだけども、旧姓だから、祐巳のお姉さまがまさか…って、母親は知らないんでしょうね。でも、図書館の本にそれはいかんでしょう、あなた! 

さて、幕間の「イン ライブラリー」
はたして祥子はどこにいたのか? いや、まさか、彼女に限ってといった感じですが。この間の表紙がヒントなのか。それにしても、祐巳と瞳子の掛け合いがよろしくていいですね。未来の姉に対して不細工とか平気でいっちゃえる下級生と、それを笑って許せる祐巳、かなりの成長ぶりですね。あと、乃梨子は貫禄があってよろしい。今回は黄薔薇組や志摩子さんの出番が控えめでした。

あとがきにもあるとおり、本が主題なだけに、現実にある有名タイトルがそこかしこに。
「この本を読み終えて、図書館や本屋さんに行きたくなった人が一人でもいてくれたらうれしいです」とありますが、読んだことのない本を読ませたくなるのは、小説の引用の醍醐味でありますね。作家になる前には、一人の読者だった。その本が作家を育ててくれた、そんな本は財産です。

本は魔物。読みはじめると時間があっというまに、というのも読書の虫ならではのあるある。
今回の外伝話は、実に楽しく読ませていただきました。ちなみ男性陣は全く出てこないので、百合の純度がかなり高めの珠玉編といってもいいでしょう。

マリみてランダム感想記事シリーズ。
なるべく連続に話がつながっていない単巻での完結したものばかりチョイスしていますが。次回はちょっとヘビーな妹問題があるあたりを攻めてみようかと思います。ちなみに拙ブログ上での発表は読んだ順とは限らないのですけどね。今回のレビューは読書の秋にちなんで、秋頃に公開予定です。


(2023/03/05)



【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。

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