陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「魂会(たまあい)─約束の園─」(九)

2009-04-27 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


私は彼女の手を引いて立ちあがった。指さしたのは、頭上に大きく枝を張って、空を覆った緑の梢の一端。

「ほら、あそこ。見えるかしら。あの枝だけふしぎなかたちをしていてね」
「え、どこ?」

彼女は手ひさしをして、瞳を凝らしている。梢の隙き間から零れた陽光がきらめいている。猛々しく繁りはじめた葉の群れがびっしり枝を覆って、視線の先をとどまらせていた。

「え…と、あそこかな?」
「いいえ。あのあたりよ」

彼女が指さしたのは、標的からわずかにずれていた。私は思わず彼女の手首をとって、人さし指の先を正しい方向に向けた。それで、やっと気づいてもらえたらしい。急に我に返って、ぱっと手を離した。顔が紅くなったところを見られてやしないだろうか。横目に見やると、少女は熱心に梢に瞳を注いでばかりいる。

「へぇ、変わってるね。面白いなぁ~」

高所にあるうえ、葉闇にまぎれて判然とはしない。まるで人目に触れるのを拒むかのように、重なった枝葉の奥も奥。ひっそりとふたつの枝が奇妙にS字型に絡みあっているのが見てとれる。少女はしきりと感嘆の声をあげながら、物珍しそうにつぶらな瞳をひときわ大きく瞬かせて、連理の枝を眺めている。

「なんで、あんな枝になったんだろうね? あの二つの枝だけ、仲良しさんなのかな」
「この樹には古い言い伝えがあってね。昔、永遠の愛を誓いあったふたりの生徒が、まだ苗木の頃に二本の枝を紐で結んだらしいの」
「ふぅん、恋人の木なんだね。すごくロマンチック」
「そのふたりは、残念ながら戦争で別れてしまって。校舎も何もかも焼かれたのに、この樹だけは奇跡的に戦渦を免れて生き延びたらしいわ。だから、この樹の下で出会ったふたりはね、…」

その先の言葉を継ぐのが、いささかためらわれてしまった。初対面の彼女に対し、変な好意を抱いてしまっていることを悟られやしないだろうかと。



【神無月の巫女二次創作小説「花ざかりの社」シリーズ(目次)】






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