陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「新しい死」が生まれる その2

2009-07-19 | 医療・健康・食品衛生・福祉
前回の記事では悲観的に書いたが、臓器移植法改正に積極的な立場の意見を、地元紙から拾っておこう。

言うまでもなくこの法改正の狙いは、臓器提供機会の増加にある。
患者団体や医療関係者の言い分では、「家族に対して」選択肢をひろげたという。

現在でも心停止後ならばドナーカードがなくとも、家族の同意があれば腎臓や角膜を提供できる。その対象を全臓器にあてはめたということだ。移植が目的でなければ、医療現場で脳死状態になっても、死亡診断書は書けない、とある医学会理事は主張した。

臓器提供者の増加を見込んだ条件緩和の大きなものは、現行法にあった年齢制限を撤廃したことだ。
提供の意思表示を本人よりも家族へ委ねるのと、この年齢制限廃止は、すなわち小児の臓器移植を多く促すためである。これまでできなかった幼児への心臓移植が日本で可能になるというのだから、救われたと感ずる患者家族も多いはずだ。

だが、この小児の臓器移植がまさに論点となっている。
というのも、小児ほど脳死からの回復率が高いとされているからだ。あるニュース番組では、二歳で脳死状態に陥り、その後一年九ヶ月生き延びて背丈も伸びた女の子の例が紹介された。

じつは小児の脳死判定はかなり難しい。さらにいえば、泣き叫ぶだけで症状を訴えてくれない小児の症状を正確に診断したり、小さな子どもの気管に人工呼吸用のチューブを挿入する能力にすぐれた医師が少ないために、みすみす助かる命でさえ死なせているのではないか、という疑いもある。

さらに懸念されねばならないのは、虐待によって脳死にされた子どものケース。米国のような第三者の公的監視チームが日本で整備されない限り、虐待した親が嘘をついて自分の子どもを臓器をさしだす恐れもある。


混乱の声は現場の医療現場からもあがっている。
ある救急医によれば、臓器の提供数が病院の評価や補助金の算定基準のされるとしたら、恣意的に脳死判定が乱発されるのではないか、と説く。医師不足で有能な医師の引き抜き合戦が絶えない昨今、業績稼ぎに患者のからだを利用する悪徳医師だって出かねない。

こうした予見される問題点を防ぐ対策が講じられないままに、法だけが改正された。施行まではあと一年間しかない。そのわずかな期間で、移植の環境がじゅうぶんに整うか。

そして、こうした重要法案がまるで、衆議院解散選挙の騒動にまぎれて成立されてしまったことも惜しまれてならない。政局がどうだとか、宮崎のそのまんま東(あえてこう呼ぶ)知事がビートたけしに叱られたとか、そんなことよりも重大なことだったはずなのに。


(〇九年七月十四日)

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