フィギュアスケートGPシリーズを、選手ごとに振り返ってみるというシリーズ企画、二人目は織田信成選手です。高橋大輔選手とならび、オリンピックも経験し、世界選手権も制覇した、もはやベテラン格の二十五歳。織田選手といえば、あの織田信長の子孫であることで知られていますが、実は母が元スケート選手という、氷上でも血統ある生まれだったんですね。シニアデビュー時の2005年にはGPシリーズで初優勝を飾るなど、現在の羽生結弦選手にも劣らないほど、注目されたホープでした。しかし、その後、スランプに見舞われたことも。私がフィギュアスケート観戦しはじめたのが2008年からでしたが、それまでに才能を買われながらも不運が重なって、なかなか本調子が出せない、という印象がつきまとう選手ですね。
しかし、織田選手ほどわかりやすく、また芸術度の高い演技をする選手はなかなかいないものでしょう。なんといっても着氷の美しさ。これに尽きますよね。また技術力も決して引けを取らないもので、二シーズン前(2010-11年)のGPファイナルではSPでいきなり、4回転トゥループ・3回転トゥループのコンビネーションジャンプに成功し(フィギュアスケートGPシリーズ2010 グランプリファイナル(一))、ハイスコアを叩きだしたことで周囲の度肝を抜いたあの演技は、いまだに目に鮮やかに蘇ります。その全盛期を知っているだけに、それだけに、現在の停滞がややもどかしいというのが実情ではないでしょうか。
さて、今季の織田選手の演技について、銅メダルを獲得したスケートカナダ(フィギュアスケート スケートカナダ2012(前)・フィギュアスケート スケートカナダ2012(後))でふりかえってみることにします。
SPの曲目は、マイケル・ケイメンの「いにしえの月に抱かれた新月」。マイケル・ケイメンといえば、「未来世紀ブラジル」や「ダイ・ハード」で知られる映画音楽の作曲家。今回の曲は、映画「陽のあたる教室」から。
織田選手といえばダークな配色のウェアしか見たことがないのですが、ブルーを基調としたさわやかといいますか、妖艶な感じの衣装です。四回転・三回転トゥループを成功させますが、トリプアクセルの両足着氷がやや痛くもあるも、その後のステップなどの要素を難なくこなしています。スコアは82.14点。この時点で三位なのですが、技術点だけ見れば、二位のパトリック・チャン選手を上回っているんですよね。ただ派手さがない古典的な曲調で、音がやや落ちて静かになったときに、いかに滑りで観客を引き込むか、そこがややもの足りないようにも感じました。昨年の膝の故障からは回復したようですが、やや、往時よりも着氷のダイナミックさが欠けていたようにも。
フリーの曲目は、ポール・デュカスの交響詩「魔法使いの弟子」。
ファンタジックな曲調にあわせて初回のジャンプは四回転、ややふらつきがありましたね。その後のトリプルアクセルでは持ち味の美しい軌跡を描く着氷シークエンスが見られたものの、次の三回転で軸足の乱れが。序盤は変化の多い賑やかな曲なのですが、それに演技、とくに上半身の振付けが追いついていないような印象があります。音楽に負けているといいますか。中盤のスローテンポにのってやや調子をととのえつつ、滑らかに三回転連続ループ・ルッツを決めます。織田選手はジャンプを飛びすぎて減点をくらってしまうこともあるようで、自分の動きを冷静にコントロールするのが難しいのかもしれませんね。クライマックスでは調子をとりもどし、無難にフィニッシュ。
スコアは156.20点でフリー三位。トータル238.34点の総合三位。
この功績により、日本人男女はアメリカ杯につづいてペアで表彰台に立つことができました。もちろん、これだけでもじゅうぶんにすごいこと。
なお、SP、フリー両方とも映画音楽として使用された楽曲で、音楽教師と問題児、魔法使いとその弟子と、どちらも師弟関係をテーマにしたもの。長年のコーチだったニコライ・モロゾフ氏は今年、安藤美姫選手とのコンビを解消し、チームメイトでもあるがライバルである高橋大輔選手のコーチに就任しています。はたして、これが日本チームにとって吉とでるか凶とでるか。ロシア人ですものね。モロゾフ氏はスケーター本人の特性にあった、得点の取れやすい演技構成を組むのが上手いとされていて、それは2011年の世界選手権を制覇した安藤美姫選手のプログラムを見てもわかるのですが、今回の演目は織田選手にいまいち合っていないような気がします。あくまで私がそう感じてしまうだけなのですが。
さて、おまちかねのエキシビジョン演技の演目は、フランク・シナトラ 「ニューヨーク・ニューヨーク」。
ムーディな音楽にのって、軽やかに踊ります。どの選手にも言えることですが、やはりエキシビジョンのほうが活き活きと滑っているんですよね。飛んだり、跳ねたり。からだの軽さからしてまず違っていると思うのです。やはり本試合の緊張感がじゃまをしてしまうのかも。本人も笑顔はつらつですし。
織田選手といえば、どうしても、バンクーバー五輪時のチャップリンの演技(氷上のエース、初快挙!(後))が頭にあるせいか、愉快に道化じみて踊っているというイメージしか湧かなくて。いい曲を選んでも、そのリズムを自分の体内に呼び込めていないような、そんな消化不良を感じます。もちろん、ジャンプなどの技術点はプロが仰るとおり文句のつけようがないもののはずですが。
織田選手は二戦目のロシア杯ではメダルを逃し五位に終わってしまったので、昨年につづいてファイナル進出が遠のいてしまいました。ご本人もオリンピック前の重要なシーズンと弁えているだけに、やや残念な結果。リベンジは全日本で果たされるのでしょうか。あんまり固くならずにリラックスして望めば好成績もかなうと思われます。再起に期待しましょう。
【関連サイト】
フィギュアスケートGPシリーズ世界一決定戦2012(テレビ朝日)
【過去のフィギュアスケート記事一覧】
しかし、織田選手ほどわかりやすく、また芸術度の高い演技をする選手はなかなかいないものでしょう。なんといっても着氷の美しさ。これに尽きますよね。また技術力も決して引けを取らないもので、二シーズン前(2010-11年)のGPファイナルではSPでいきなり、4回転トゥループ・3回転トゥループのコンビネーションジャンプに成功し(フィギュアスケートGPシリーズ2010 グランプリファイナル(一))、ハイスコアを叩きだしたことで周囲の度肝を抜いたあの演技は、いまだに目に鮮やかに蘇ります。その全盛期を知っているだけに、それだけに、現在の停滞がややもどかしいというのが実情ではないでしょうか。
さて、今季の織田選手の演技について、銅メダルを獲得したスケートカナダ(フィギュアスケート スケートカナダ2012(前)・フィギュアスケート スケートカナダ2012(後))でふりかえってみることにします。
SPの曲目は、マイケル・ケイメンの「いにしえの月に抱かれた新月」。マイケル・ケイメンといえば、「未来世紀ブラジル」や「ダイ・ハード」で知られる映画音楽の作曲家。今回の曲は、映画「陽のあたる教室」から。
織田選手といえばダークな配色のウェアしか見たことがないのですが、ブルーを基調としたさわやかといいますか、妖艶な感じの衣装です。四回転・三回転トゥループを成功させますが、トリプアクセルの両足着氷がやや痛くもあるも、その後のステップなどの要素を難なくこなしています。スコアは82.14点。この時点で三位なのですが、技術点だけ見れば、二位のパトリック・チャン選手を上回っているんですよね。ただ派手さがない古典的な曲調で、音がやや落ちて静かになったときに、いかに滑りで観客を引き込むか、そこがややもの足りないようにも感じました。昨年の膝の故障からは回復したようですが、やや、往時よりも着氷のダイナミックさが欠けていたようにも。
フリーの曲目は、ポール・デュカスの交響詩「魔法使いの弟子」。
ファンタジックな曲調にあわせて初回のジャンプは四回転、ややふらつきがありましたね。その後のトリプルアクセルでは持ち味の美しい軌跡を描く着氷シークエンスが見られたものの、次の三回転で軸足の乱れが。序盤は変化の多い賑やかな曲なのですが、それに演技、とくに上半身の振付けが追いついていないような印象があります。音楽に負けているといいますか。中盤のスローテンポにのってやや調子をととのえつつ、滑らかに三回転連続ループ・ルッツを決めます。織田選手はジャンプを飛びすぎて減点をくらってしまうこともあるようで、自分の動きを冷静にコントロールするのが難しいのかもしれませんね。クライマックスでは調子をとりもどし、無難にフィニッシュ。
スコアは156.20点でフリー三位。トータル238.34点の総合三位。
この功績により、日本人男女はアメリカ杯につづいてペアで表彰台に立つことができました。もちろん、これだけでもじゅうぶんにすごいこと。
なお、SP、フリー両方とも映画音楽として使用された楽曲で、音楽教師と問題児、魔法使いとその弟子と、どちらも師弟関係をテーマにしたもの。長年のコーチだったニコライ・モロゾフ氏は今年、安藤美姫選手とのコンビを解消し、チームメイトでもあるがライバルである高橋大輔選手のコーチに就任しています。はたして、これが日本チームにとって吉とでるか凶とでるか。ロシア人ですものね。モロゾフ氏はスケーター本人の特性にあった、得点の取れやすい演技構成を組むのが上手いとされていて、それは2011年の世界選手権を制覇した安藤美姫選手のプログラムを見てもわかるのですが、今回の演目は織田選手にいまいち合っていないような気がします。あくまで私がそう感じてしまうだけなのですが。
さて、おまちかねのエキシビジョン演技の演目は、フランク・シナトラ 「ニューヨーク・ニューヨーク」。
ムーディな音楽にのって、軽やかに踊ります。どの選手にも言えることですが、やはりエキシビジョンのほうが活き活きと滑っているんですよね。飛んだり、跳ねたり。からだの軽さからしてまず違っていると思うのです。やはり本試合の緊張感がじゃまをしてしまうのかも。本人も笑顔はつらつですし。
織田選手といえば、どうしても、バンクーバー五輪時のチャップリンの演技(氷上のエース、初快挙!(後))が頭にあるせいか、愉快に道化じみて踊っているというイメージしか湧かなくて。いい曲を選んでも、そのリズムを自分の体内に呼び込めていないような、そんな消化不良を感じます。もちろん、ジャンプなどの技術点はプロが仰るとおり文句のつけようがないもののはずですが。
織田選手は二戦目のロシア杯ではメダルを逃し五位に終わってしまったので、昨年につづいてファイナル進出が遠のいてしまいました。ご本人もオリンピック前の重要なシーズンと弁えているだけに、やや残念な結果。リベンジは全日本で果たされるのでしょうか。あんまり固くならずにリラックスして望めば好成績もかなうと思われます。再起に期待しましょう。
【関連サイト】
フィギュアスケートGPシリーズ世界一決定戦2012(テレビ朝日)
【過去のフィギュアスケート記事一覧】