陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

目を覚ませ、ぼくらの二次創作はジャンルビッチに侵略されてるぞ?

2019-03-15 | 二次創作論・オタクの位相

昨年10月からワンクール放映された、「SSSS.GRIDMAN」(公式サイトhttps://gridman.net/)というアニメをご存じでしょうか。ウルトラマンシリーズを手掛けたあの特撮集団・円谷プロの1993年放映作「電光超人グリッドマン」という実写特撮番組を下敷きにした、完全新作のスピンオフアニメ。CGながらも怪獣バトルが闊達に表現され、なかなかマニア受けが良かったようです。このアニメの公式側が、2018年末のコミックマーケットにおけるグッズや同人誌頒布に対する規制をかけたことが、ちょっとした騒ぎになっていました。

この「SSSS.GRIDMAN」は、記憶喪失の少年が電脳世界にいる超人と一体化して、街を襲う怪獣と戦う正統派すぎるヒーローものです。
25年前の旧作(私は未見でした)を知るファンにも嬉しい仕掛けなどもあるのですが、なぜか、特撮ファンではない層向けにもネット上で話題にされたとのことです。EDに描かれた女の子ふたりで百合カップル成立するのではとざわめかれ、ユリッドマン(笑)とかいう徒名まであったり。私がよく知るあのアニメの主演男性声優が脇役で出演していたせいか、そのアニメとの関連をささやく声もありました。いや、別に、そのアニメとの近似性うんぬんは別にして、すなおに面白かったのではないでしょうか。そして、公式スタッフはこの異様な盛り上がりによる作品イメージ歪曲を懸念して、あえて二次創作物に制限をかけたのだと察します。

二次創作で異様な熱狂のある原作ジャンルは、たいがい、本来のメインターゲット層ではない顧客にも受けてしまったことが多いものです。公式側もわざと際どいウケ狙いでBLっぽくしたり、百合めいてみせたりと、実に巧妙な気配を漂わせてファンをおびき寄せます。ときには声優さんに、妖しいペアのように偽装させた営業をさせてまで。私が子どもの頃ハマっていた「美少女戦士セーラームーン」にしましても、海王星の人と天王星の人の、やり過ぎ感のある演出も当時かなり刺激的でしたが、今はこれを上回ってあたりまえの過剰なエモーショナルなやりとりが、二次元(どころか三次元ドラマまでも!(汗))存在するのでございます。日本の創作物は摩訶不思議です。そもそも『源氏物語』からしてハーレムですからね。

公式がなぜ二次創作ウケのいい演出を行うかといえば、その裏には、大量にジャンル移動していくファン活動者の存在があります。ところで、私は前回の記事で、うっかりと「ジャンルイナゴ」と「ジャンルビッチ」とをごちゃまぜにして、どちらも悪しきもののように表記していました。これについて今回、加筆修正しておくものです。

正確な定義というものがわからないので、あくまでも私見ですが。

ジャンルイナゴ:
人気ジャンルを一定周期で渡り歩く。集団感染のように一時的にブームになり、急速に人気が衰えることもあるので、イナゴ呼ばわりされる。移動後は戻ってこないことが多い。

ジャンルビッチ:
複数ジャンルをあちこちつまみ食いして、足をかけている。原作物の人気を基準にしないケースもあり、ハマるジャンルが似通っていないこともある。

同人活動経験者のブログを観察していると、だいたい、ジャンル移動は早ければ半年ごと、長くても3年ぐらいとのことです。半年というのは、コミケが夏冬開催だからなのでしょうか。コミケやイベントでは、原作ジャンルを登録し、決められたブース席を割り当てられるようなので、自分が今どのジャンルに所属しているかを明示せねばならない。そのため、ジャンル移動すると戻りにくい雰囲気もあるようですね。ジャンルの人気度をあてにしている態度が嫌われ(二次創作は多かれ少なかれ、原作の知名度に左右されるものですが)、ジャンルを去ったあとは居残り組に裏切者と認識されることもあるので、あえてペンネームやサークル名義を変更して出直す二次創作者もいるくらいです。なんと殊勝な。

ジャンル移動する理由はさまざまで、同人仲間に誘われたからとか、現ジャンルの人間関係に疲弊したとか(SNSでいじめに近い事態もあるらしい)、公式の展開が好きではなかったとか、描きたかったことをやり尽くしたので新ジャンルに挑戦したいとか。かなりのメジャージャンルですと、カップルどうしでの派閥や解釈違いでの心理的抗争もあるらしく、なかなか活動をつづけるのも気苦労なようです。趣味でお金も労力も投じている活動なのに、メンタルを壊してしまったらどうしようもありませんよね…。

ジャンルビッチは、ジャンルイナゴよりもなお言葉の響きがよろしくないですね(笑)。
要するに、同時並行的にアレも好き、コレも好きで、複数ジャンルにつっこんで掛け持ちで制作してしまう。ジャンルイナゴのひとが、一つ一つのジャンルにきれいにさよならしているのに比べたら、浮気性の印象を与えるのかもしれません。昔は同人誌で一冊に、二、三のジャンルの二次創作を載せる(別作は裏から読ませる)こともあったようですが、今もあるのでしょうか?

なお、私自身は、このジャンルビッチ型(+ジャンルゴジラ)だと自覚しています。
発表頻度が遅いのですが、二、三の原作物を同時並行的にちょこちょこ更新していく。本人は飽きたら、一時的に別ジャンルにとりかかるので楽しいのですが。受け手側にしたら、あの作品はいいので、こっちの続きを早くしあげてほしいという不満もありますね。オンライン活動は締切がないので、いつまでも放置されることもありえます。

どちらのタイプもけっきょく複数ジャンルを経験していることに変わりはありません。
書き手側からしたら、バリエーション豊かに思えて、ジャンル移動が頻繁なほうが器用に何でも描ける印象があります。しかし、読み手側からすれば、好きなジャンルの二次創作者が自分の苦手な原作物にハマる、あるいはそこから移動してきたケースもあるので、心境は複雑です。好きなジャンルの話に絡めて、嫌いな原作の見たくも聞きたくもないキャラの話をされたり、下手したらコラボ作品をつくられたりしたら、ちょっと…と二の足を踏む方もいるかもしれないですね。二次創作は個々の自由なので。

ジャンル移動を重ねたあげくに、特定のジャンルに腰を落ち着けてしまうジャンルゴジラなる存在についても、前回解説しておきました。このジャンルゴジラぶってる人についても、まったく移動の可能性がないとは言い切れませんね。なにせ、若い頃にやめた同人活動を中年期以降に再開させたりする人もいるぐらいですから。

このジャンル移動についても、二次創作者の皆さんがどういう基準で選択されているのか興味があります。
カップル創作にこだわる人は、攻めが黒髪で背が高くて、受けが茶髪で子供らしくて、などなど実にとても具体的に(笑)、ご自身の理想を語ってくださいます。つまり、見た目や性格がすでにあるものと似ていたら飛びつく。あるいは舞台背景にもよりけり。和風伝奇ものが好きな人は、西洋風姫と騎士やSFロボットにははまらない。日常学園文化系が好みの人は、スポーツ根性ものや大人向けのグルメ、ビジネス専門職(宇宙飛行士とか、医者とか)の話には染まらないとか。傾向のこだわりがありまして、そういう壁を越えさせるために、ありふれた恋愛要素だとか、百合だとか、BLとかのスパイスがあるのかもしれませんね。

ところで、冒頭に紹介した作品「SSSS.GRIDMAN」は、最終回にちょっとびっくりするようなからくりがあります。わたしたち二次創作者は他人様の生んだキャラを使って、好き勝手に世界をこねりあげたり、壊したりするし、支配欲にまみれて盲目になったりもする。そのアニメ作品は、われわれの創作ごっこ活動をやや皮肉りつつも、そっと肩を叩いて励ましてくれるような優しさが感じられる終わり方でもありました。

二次創作として、自分の妄想の胃袋に溶かし込んで愛するよりも、なお善意ある作品理解とはどうであるべきなのか──をふと考えてみたくもなったのです。二次創作に利用できるか否かではなく、ときには、純粋に物語の作り手の発するテーマに素直に向き合って楽しむ、という姿勢に気づかせてくれたのでした。


【二次創作者、この厄介なディレッタント(まとめ)】
趣味で二次創作をしている人間が書いた、よしなしごとの目次頁です。
二次創作には旨みもあれば、毒もあるのですね…。




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