陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

巫女の絶愛・天使の相愛

2007-02-11 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


管理人は心のどこかで、こうなることを望んでいた。
二人の恋が再び茨の道を歩むことを。
ヒミコがあんなに悲しんでいるのに、カオンちゃんがこんなに苦しんでいるのに
管理人は、心のどこかでわくわくしていた。



…いや、本音いうと心の疼きでいっぱいで。
激流を下る筏舟のような話運びについていけないです。
もうすこし時間を置いて結末を知って見返せば、この衝撃も快感に変わるかも
しれないですが。
「神無月」の夢を追いすぎて、「京四郎」を観ていくのは、きついですね…。
放映前の漫画版の外伝や、二話をあんなつくりにしてみせたのも、その後の
ギャップを狙ってやっているんでしょうね。

この三話観た時点では、最後カオンも含めた絶対天使って消されるんじゃないかと
危ぶんでみたり。
スターシステムの弊害、すなわち前作のキャラにこびりついたイメージへの固執
なんてこと考えていなくて、ファンの意向なんかお構いなしのキャラ虐待。
あの拷問シーンは、創作者の思惑を離れて独り歩きする宮様人気への冷や水なのか、
過熱化してゆく百合ムーブメントへのあてつけなのか。
ホームズを作中で殺してしまった(その後復活させてますが)コナン・ドイルみたいな、
つむじ曲りな作者精神は私としては大歓迎なのですが。


ところで「京四郎と永遠の空」って、愛をエネルギーに見立てているところが
面白いですね。さほど珍しいアイディアでもないのかな。
世界を構成する第五の元素が愛だと説いたリュック・ベッソン監督映画を
思い起こします。
今回は愛の枠を百合から一般の領域にまで押し広げて、そのなかで姫子と千歌音の
愛を捉え直す試みなのでしょうか。
クィア好みな人間にとってはいささか寂しいのですが。
要するに人外の者という設定の導入によって、生存本能とは別に愛を与えられる
人間存在の素晴らしさ(そして、その愚かさも含めて)を描くという、より「大きな
物語」なのでしょう。


人間を超越した存在でありながら、人と対にならないと生きていけない天使とは
やはり脆く儚い命だといえそうで、人間の生み出す物に絶対などはありえないのですね。
人との愛に頼らないと消えてしまう天使たちの有り様は、その実、パンのみを糧として
生きられるのでもないわれわれ人間存在のかたちでもあるわけで。
この天使と人間との愛というのは興味深いテーマで、神無月の二人が出演しているから
だけでなくこの物語に私が惹きつけられている理由でもあったりします。


巫女という二人だけの絆で、誰にも踏み込めなかった姫子と千歌音の、特化した愛。
それに比べ、今回の天使と人間との差異から紡がれる愛は、三組に増幅され、並列され、
相対化されていることが特徴です。
ひとときは結ばれもするがどちらかの手によって滅びねばならない愛の宿命から、
絶対に逃れられないというのが、アニメ神無月の結論。
もし、この巫女の宿命が二人だけに背負わされたものでなければ、もしくは女の子
どうしの恋愛に間近で触れる機会があったならば、千歌音の苦しみも彼女一人のもの
ではなかったのではないでしょうか。
そしてまさに「神無月の巫女」の魅力とは、想いが永遠に輪廻し一の人を選ぶという
必然性、そして他を愛する事はできない排他性、こうした絶対にして完結された
愛の深さにあるのです。
この巫女の法則から逃れ、しかも他のペアとのラブドラマとの比較によって、
姫子と千歌音の究極にして過剰な愛を、冷静に描き直したのが本作といえるでしょう。


単に女の子がいちゃつくだけの百合愛を描くのでなく、これも凄絶な愛のかたち。
人を愛する事に自分の本質を揺るがす、生への嘔吐に近い感情が含まれている。
自己否定を抱えながら、他者を愛する。
剣に口づけるような、愛すれば愛するほど自分が深く傷つく苦しみの愛。
「女の子どうしは恋人になれない」と考える千歌音と、
「絶対天使と人間は恋人になれない」と悩む白鳥空。そしてせつなとカオン。
(たるろってとソウジロウは恋愛関係とはいえなさそうなので)
二つの物語の切なさは同じ程度だと考えられるのですが、天使たちの恋愛事情は三分化
されてしまった分、一人にかける比重が薄まっている感はやや否めませんが…。
神無月の巫女を思わせる場面を散見させて、ファンを惹きつけておきながらも、
カオンとヒミコの関係については、かなりドライに割り切って描くつもりなのか。


この物語には『鋼鉄天使くるみ』の設定が素地にあるらしく、かなり長期で構想を
温めていたテーマのようです。
ある意味、姫子と千歌音のその後にとっては「神無月」以上のすばらしい舞台が
整えられたといえそうですね。
ただし、絶対天使の定義に判りにくい点が多く、メルヘンな世界観に馴染めない
私にはいささか考えすぎてしまって、どう評してよいのか、なかなか難しい物語です。
あまりそういう仕組みに囚われずに、単純に人物の感情の動きだけ読み取っていけば
いいんでしょうけどね。


どうやら調律が完了した次回以降は、カオンちゃんの洗脳が進んでいく様子。
オルゴールの小夜曲のように愛しのヒミコと奏でていた甘い旋律も、
残酷な運命の女神の手でねじを巻き直される。
彼女達の恋路も、えてして一直線とはいかないようです。


最終局面ではカオンちゃんには、こう言ってもらいたい。
「月と地球と太陽と、貴女の愛があればそれでイイ…」



神無月の巫女・京四郎と永遠の空レヴュー一覧


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2 Comments

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……………………………… (SS)
2007-02-12 00:12:45
………………………………………………………………
………………………………………………………………
……………………………………………………ハッ!?

あまりの考察レヴェルに度肝を抜かれたSSです
私如きがコメント付けていいのか!?此処に!

介錯って最初ワケ解からない展開で
読者、視聴者を引かせ(悪い意味で)
そして後半、見事な展開で惹き込ませるという
なんか、後半で力尽きることがあまり考えられない
作家なんですよね
で、いよいよ介錯熱の入りかかってきたこの展開
今度は何処まで魅せてくれるのか

私、唯いちゃつくだけの百合愛って受け入れ難い性質
でして…「ストパニ」とか「マリみて」とかは
未だ手を出しておらずなのです
愛の障害であることも、茨の道であることも
やはり壮絶なものを私はのぞんでいたようです

悲しいことにサブキャラである彼女たちを何処まで
描いてくれるのかは分らないけど…
愛の果てにあるのは絶望か救済か
ひぐらし祭囃し編開始直前なおっかない気分です
パンドラの箱ってやつです
…ひぐらし分からなかったらゴメンです

では、この辺でシメに

SSは心のどこかで、こうなることを望んでいた。
二人の恋が再び茨の道を歩むことを。
ヒミコがあんなに悲しんでいるのに、カオンちゃんがこんなに苦しんでいるのに
SSは、心のどこかでわくわくしていた。






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姫千歌信者はつらいよ (万葉樹)
2007-02-12 21:47:19
ごきげんよう、SS様。
いつもコメントで、やる気引き上げていただき、
ありがとうございます。

介錯先生の作品でじっくり読んだ事あるのって「神無月」ぐらいで、『絶対介錯』で概要はおさらいしてみたものの、あまりよく理解せずに語っているところもあるんですけどね、このブログ。
終わりよければ全て良し、タイプの作家さんでしょうか。
雑誌連載も抱えていて、十年連続で毎年アニメが放映されているのってプロとして凄いと思いますよ。原作者だけでなくて、アニメスタッフも。限られた時間とお金で結果を出すのって、大変なことだから。


「神無月の巫女」が一番であることには違いないのですが、ソフト百合を否定してはいないのですし、さらりと少女同士の友愛を描いたものがあってこそ、その対極として「神無月」みたいなハード恋愛物も生きると。
でも最近の「京四郎」観てると、「神無月」の前半部見直したり、「マリみて」読み直したり百合系創作サイト様の上質で甘々な作品で補完したくなります。心の気休めに。

ちなみに「ひぐらしのなく頃に」は怖すぎて観れません。
安易に人を殺傷する作品って耐えられないですから。


推敲能力無くて文面が無駄に長くて読み辛いかもしれませんが、レビュー等はぼちぼち更新させます。
ではまた。
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