陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

手軽に読める情報誌は人気作家のエッセイの宝庫

2022-07-05 | 読書論・出版・本と雑誌の感想

活字中毒者はいつでも、どこでも、良さげな活字があれば、そこへ吸い寄せられます。
関西での独り暮らし時代から、街に転がっている印刷物は可能ならばなんでも拾ってきました。たとえば、タウン誌やら、求人誌やら、あるいは不動産会社の広告。間取りが載っているのを見ると胸が躍ります。

地域のミニコミ情報誌、自治体の広報誌にはその地方ならではのお得情報が載っていますが、そこにあるエッセイは若干素人感があって味気ないものです。その地域に根差した活動をするライターが手掛けているのだからしょうがありません。

しかし、やや上質な文章を読む方法はいくらでもあります。
ネット上でというのではなく、紙の媒体で。新聞やら、有名雑誌というのでもなく、気軽に読めそうな情報紙面で、意外にも掘り出し物があるんですよね。

そのひとつが、JAFの会誌『JAF Mate』
自動車の運転者で加入者ならば毎月送られてきますよね。各種優待券もついていたりもしますが、とにかく読み応えがあります。初級ドライバー向けのハウトゥから暮らしのヒント、そして旅のガイドまで。日本各地の景勝地を訪れた、鮮やかな写真とともに語られる旅行記は人気連載。このコロナ禍の慰めになっています。

そのJAFの会誌には、「幸せってなんだろう」というコーナーがありまして。
わりあい名うての作家さんが寄稿されているんですよね。お気に入り作家さんの回だとガッツポーズしたくなります。ここではじめて御芳名を知りまして、本を手に取るきっかけになった方もいる。

それから、おススメしたいのが「食と農の情報誌Apron」
これは農協のATMでたまたま見つけたもので、無料配布されています。家庭菜園をされる方向けの野菜の栽培法、旬の素材の調理法。そして、日本ペンクラブ会員による食と農のエッセイ。Apron WEBマガジンで、著名作家のバックナンバーが公開中とのこと。私が最近読んだのは、直木賞作家の木内昇さんのエッセイ。独特の描写と資料を渉猟した緻密な構成が魅力の女性作家さんですよね。

あと、他に気軽に手に入る場所といえばホームセンターにある冊子なんかもそうですね。
DIY好きのタレントさんや、キャンパー向けの情報があったりします。

こうした無料もしくは付録的な冊子にあるエッセイは、本職の作家さんが余技的に書き下ろしたものが多いです。
なので、ふだんの単行本で読む文章よりは肩の力を抜いて、小難しく考えずにさらりと読めます。身近な私生活まわりのことについて書かれているので、親近感を抱けたりもします。意外にもそうしたややあっさりめの小話で語られたことが、そのひとの次作のヒントになっていたりもするんですよね。自作の素材に練っている段階のためなのか、やや文章の精度が落ちることはあるのですが。やはりプロだから観察力と切り口が鋭くて、いい文章を読ませていただいたな、という満足感があります。

こうしたエッセイは気軽に一流の文筆家の感性に触れられる機会なので大事にしたいですね。

なお、こうした情報マガジンには読者投稿コーナーもあるので、文章書くのが好きな皆さんも参加して楽しめる魅力もあります。この敷居の低さもいいですよね。

(2021/09/08)


読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。

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