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Re-Set by yoshioka ko

■アメリカに勝利はあるか(中)イラク戦争症候群

 イエスかノーかで迫るのが、この人の常套手段。(あ、もうひとりいた、ね!。誰だろう?)

 「我々の国には二つの選択肢しかない。勝利か敗北かだ」・・・。

 日本時間の今朝、テレビ演説でブッシュ大統領はこう語ったが、こういう二者択一を迫るいい方は、ブッシュ大統領独特のものだ。アメリカに同時多発テロが起きた2001年9月、このときも「世界はいま、われわれにつくか、テロリストにつくかの選択に迫られている」だった。

 果たして二者択一が正しい迫り方なのかどうか、大きな疑問でもある。その前に今朝の大統領演説から・・・。
 
《以下引用》
 「ブッシュ米大統領は18日夜(日本時間19日朝)、ホワイトハウスの執務室から米国民に向けてイラク政策のテレビ演説を行った。大統領は、イラクでの戦いが「予想以上に困難」と認めた上で、米国には「勝利か敗北か」の二つの選択肢しかないと訴え、イラク政策への支持を求めた。執務室からのイラク演説は03年3月に開戦決断を告げて以来で、メッセージに重要な意義を込めた。大統領は、米軍死者数が2100人を超えても治安情勢に改善の兆しが見えないことから米国内に悲観的な見方が広がっていることにも率直に言及。「戦争に負けたと結論づける人たちがいる」「我々は問題を解決するより、より多くの問題を作っているのではないかと問う人たちがいる」と述べ、イラクでの戦いは「我々が予想した以上に困難だ」と認めた。その上で大統領は、「我々の国には二つの選択肢しかない。勝利か敗北かだ」と米国民に迫ることで支持を呼びかけた。(12月19日『毎日新聞』)《引用ここまで》

 ブッシュ政権が始めた〈テロとの戦争〉には、武力という選択はあっても外交という選択は全くなかった。武力に依存する以上は勝つか負けるか、という選択しかない。だが、もし外交という選択があれば、それは無限の可能性を持っただろうと想像する。
 このかたくなさが、イラク戦争に参戦した多くのアメリカ兵たちに回復不能な実害を与えてきた。実情をお伝えする。(数字や数値は新聞掲載時点でのもの)


■「9・11から4年」アメリカに勝利はあるか?~イラク戦争症候群~

 「特徴的なことは、精神障害を訴える兵士が圧倒的に多いということなんです」
 イラク戦争が兵士らに与えている影響について質問したとき、全米湾岸戦争情報センター(ワシントンD・C)のスティーブ・ロビンソン顧問の答えははっきりしたものだった。

 アメリカは、1990年に始まった湾岸戦争では電撃的な勝利を収めたが、兵士たちにも〈湾岸戦争症候群〉という大きな傷跡を残した。これは油田火災、敵戦車を殲滅させるための劣化ウラン弾の大量使用、あるいは砂塵や風土病、それに抗マラリア剤や神経ガス防御薬の副作用などを原因として発症した白血症やガン、倦怠感や記憶障害といった一連の症候を指したものだが、今度のイラクにおける〈テロとの戦争〉が兵士たちにもたらしているものは、それとは全く違ったものだ、と顧問はいう。

 「戦争の大義も目的も定かではなく、しかも市街戦だから戦う相手との距離も格段に近くなっている。派遣期間も長引いたままで、兵士を帰還させるためのローテーション計画すらもないんです」

 先行きの見えないイラクで、常に自爆や自動車爆弾に怯え、ときには銃声音に引きずられるように発砲する。斃れた人物がテロリストなのか普通の市民なのかといった峻別もできないまま、不安と恐怖だけが心に鬱積する。その一方で兵士には、自分は国家と社会に命じられた正しい使命を遂行しているという信念が必要なのに、その信念にも疑念が生じる。そして祖国からさえ聞こえてくる反戦の声・・・。 イラク戦争の実態が徐々に露わになる中で、新たな〈イラク戦争症候群〉とも呼ぶ症状が、兵士たちの精神を不安にさせている、というのである。

 「イラクに行かされたことに怒りはない。だが毎日が葛藤だよ。この戦争は始める前にもう少し考えてみるべきだったんではないか、とね」
 「突然銃声がしたんだ。だから音がした方向に向けて撃ち込んでやった。しかし死んだのは女性や子供だったんだ・・・」

 帰還した兵士たちの信念のぐらつきや良心を苛む声を聞きながら、私はひとつの言葉を思い浮かべた。心的外傷後ストレス障害(PTSD)。
 これは生命や身体に対する通常の体験を越えた脅威が心理的な打撃を与え、その体験が夢や回想として繰り返し襲う、いまも目の前で起こっているかのような錯覚に陥る、驚愕反応が表れたかと思えば反対に感情が鈍麻するといった症状に加えて、孤立感、睡眠障害にも悩まされる。症状は何ヶ月も何年間も続き、このために日常生活への適応が難しくなり、アルコールや薬物依存からやがては離婚、失業、自殺、犯罪、ホームレス化といった社会的病巣となって定着する。

 アメリカでこのようなPTSDがもたらす影響に関心が高まったのはベトナム戦争からで、いまも障害に苦しむ帰還兵は50万人から150万人といわれている。これは従軍兵士全体の18~54%に相当するものだ。
 そしていま、イラク戦争がベトナムに取って代わった。

 全米湾岸戦争情報センターの調査(去年2月末)では、イラクから帰還した兵士の14%に相当する1260人に、精神障害が起きていたことが分かっている。
 この数字を元にもう少し実態を推測してみる。ブッシュ大統領が宣言したように、今後も任期一杯イラクに踏みとどまった場合、PTSDを始め精神に何らかの障害を抱える帰還兵は14万人体制の約5%、7484人となる。少ないように感じるかも知れないが、調査時点がアブグレイブでの虐待事件、ナジャフやファルージャでの大虐殺や総攻撃以前であることを考慮すれば、実態はもっと深刻なものだと想像がつく。 

 しかも国防総省専門家が語るこんな数字もある。
 「開戦以来すでに100万の兵士たちがイラクの戦場に赴いたが、3人に1人が鬱病や深刻なトラウマに悩まされている。そして最終的には、心の治療が必要とされる兵士たちは10万を超すだろう」(04年12月17日付『ニューヨーク・タイムズ』)。

 イラクのアメリカ軍は、いまその内部でも大きな危機に直面している。(9月21日付『琉球新報』掲載)

(この稿続く)

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