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■A級戦犯への「不快感」

 靖国神社にA級戦犯が合祀されたことについて、昭和天皇が「私あれ以来、参拝していない、それが私の心だ」と述べた、と当時の富田朝彦宮内庁長官のメモに記されていた、というニュースは、活発化した梅雨前線が長野を始め各県に被害を与えていた重苦しい日本列島に波紋を広げた。

《以下引用》
 「小泉純一郎首相は20日夕、首相官邸で記者団に対し、昭和天皇が靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)に不快感を示した資料の発見が自らの参拝に与える影響について「ありません、それぞれの人の思いですから」と述べ、否定した。一方、自民党の久間章生総務会長や中川秀直政調会長が分祀論に同調する見解を改めて表明するなど、新資料の波紋が与野党に広がっている。
◆富田朝彦元宮内庁長官のメモに関する小泉純一郎首相と記者団とのやりとり
――どう受け止めるか。
 ◇これは心の問題だから、陛下(昭和天皇)もさまざまな思いがおありだったと思う。
――合祀後、天皇が参拝していないが。
 ◇それぞれ人の思いがあるから、私がどうこう言う問題じゃない。
――天皇が参拝できる状況の方がいいのでは。
 ◇それぞれの心の問題だから。参拝されてもいいし、しなくてもいいし。自由ですから。
――追悼施設としてどのようなものが理想的か。
 ◇なかなか結論が見えにくい。
――首相自身の参拝に影響があるか。
 ◇これはありません。それぞれの人の思いですから。心の問題ですから。強制するものでもないし、あの人が、あの方が行かれたからとか、良いとか悪いとかいう問題でもないと思う。
――これからも行くか。
 ◇心の問題ですから。行ってもいいし、行かなくてもいいし、誰でも自由ですね。
――A級戦犯分祀に対する考えは。
 ◇一宗教法人に対して、あああるべきだ、こうあるべきだと政府としては言わないほうがいい。議論は結構です。(7月20日『毎日新聞』)《引用ここまで》

 当時、国家元首でもあった昭和天皇の感覚からすれば、A級戦犯を裁いた東京裁判を認めればこそ、「戦争を引き起こしたA級戦犯によって犠牲となった兵士が祀られている靖国神社に、同じように合祀されるのは矛盾だ」と感じたのだろうと思う。だからこそ、いつかは公になることを予想して、あえて宮内庁長官のメモにされる形で発言したのだ、と私は推測する。

 東京裁判では裁かれることもなかった昭和天皇が、自省を込めて「戦争責任の所在」を明確にした言葉だったに違いない、と私は思う。

 が、それにしてもである。国家元首だった天皇が、天皇制の支柱でもある神道の総本山の靖国神社へのA級戦犯合祀に、明確な不快感を示していた、という事実が出てきたにもかかわらず、今では一国の最高責任者となった首相、小泉純一郎の今日の上記の会見言葉はどうだろう。

 思い返してみれば、小泉首相は靖国参拝をこの5年間ずっと続けてきたが、A級戦犯についてどう考えているのか、ということに明確に答えたことがあるのだろうか。

 昭和天皇は合祀されたことに不快感を表すことで、A級戦犯と戦死者をはっきり区別した。だからこそ参拝を止めた。筋が通る。翻って小泉首相はどうか。A級戦犯も戦死者も一緒くた、では、首相自身の《先の大戦》認識が問われる。そこを明確にしないままでの8月15日参拝は、筋が通らない。「ためにする」参拝というしかない。

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