つまり、ビラやチラシは情報そのものであったり主張を訴えたり知らしめたりするものだが、人によってはうっとうしかったり、逆にありがたいものであったりする。そういうビラやチラシを巡って、ある控訴審判決が今日出された。
《以下引用》
「自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配るため昨年1~2月、東京都立川市の防衛庁官舎に立ち入ったとして住居侵入罪に問われた市民団体メンバー3人の控訴審で、東京高裁は9日、無罪とした東京地裁八王子支部判決(04年12月)を破棄し、罰金10万~20万円の逆転有罪判決を言い渡した。中川武隆裁判長は「ビラによる政治的意見の表明が言論の自由により保障されるとしても、投かんのため管理者の意思に反して建造物等に立ち入ってよいということにはならない」と述べた」(12月9日『毎日新聞』)《引用ここまで》
判決を要約すれば、言論の自由は保障されなければならないが、だからといって管理者の意思に反して建造物に立ち入ってはならない、というものだ。
普段私は、自分の郵便受けに放り込まれるビラやチラシに対して愉快な思いはしないが、目くじらを立ててまで、けしからん、なんとかしなければ、と思っているわけではない。その理由はいたって簡単だが、放り込まれるビラやチラシが、例え気に入らない政党のマニュアルなどを刷り込んだものであったとしても、それが役に立つこともあるからだ。
普通官舎やマンション、あるいは集合住宅では、入り口に「外部者立ち入り禁止」の立て札や看板が掲げられている。そして敷地内の管理は、委託された業者や管理組合が責任を持つ。しかしながら、個々の郵便受けには前述したようなビラやチラシが連日のように放り込まれる。
判決の対象となった立川市の防衛庁官舎では、一切ビラやチラシの放り込みは常に禁止、だったのだろうか。管理者は、郵便受けや新聞受けに放り込む目的で敷地に入ってきた「外部者」を監視し、その都度ここではノー、という声をかけてきたのだろうか。
私も随分前に、管理組合の理事という役目を仰せつかったことがあったが、1年という任期中に「ビラやチラシをなんとかしてくれ」といった住民からの苦情を受けたことはなかった。それはおそらく私が考えるに、うっとうしいけれどもたまには便利だ、という思いがあったからではないか。
ところで今日の判決だが、官舎への立ち入りについては1審とほぼ同じように住居侵入罪に当たると認定したが、1審が「刑事罰に値する程度の違法性がない」としたことについては、事実を誤認し法令の解釈、適用を誤った、として以下の3点を指摘した。
1)表現の自由が尊重されるとしても、他人の権利を侵害してよいことにはならない。
2)居住者から抗議を受けながら同じ行為を繰り返した。
3)管理者は対応策として禁止事項表示板を設置するなどしており、法で保護された利益の侵害の程度が軽微とは言えない。
さて問題は、すでに指摘したが、この防衛庁官舎では、今回の「イラク派兵反対!」ビラに限らず、管理者は普段でもビラやチラシの配布は住居侵入罪という強い認識で臨んでいたのかどうか、ということである。もしそうであるとすれば、それは官舎に住む住民、ここでは防衛庁関係者ということになるのであろうが、居住者の総意を得た上での対応だったのだろうか、ということである。なぜならば居住者のなかに、どのようなビラやチラシであれ読みたいと思う人がいないとはいいきれないからだ。
もしそうではなく、普段政治色のないご案内ビラやチラシなどは放り込むままにさせておいて、今回のビラだけを問題にしたのだとしたら、やはり恣意的判決、と批判され、表現の自由を危うくさせるものだ、と批判されるのも仕方ないのではないか。
要は、ビラやチラシ一枚一枚の各戸配布が、果たして本当に住民のプライバシーを侵害するほどひどい行為なのかどうか、ということだ。そこを高裁は侵害する行為、だと判断した。
だとすれば、市会議員さんの議会報告などという政治色の強いビラはいうに及ばず、不動産屋さんもガソリンスタンド屋さんも、快適リフォーム会社やテレビ・ミシン、古紙などの無料回収屋さんも、寿司屋、ピザ屋、そば屋さんもフジサンケイグループもこれからは心したほうがいい。(どのような内容であれ)市民のためによかれと思って放り込んだビラは、(訴えられれば高裁では)確実に違法です。
最高裁判所はどのような判断を下すのだろうか。
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