《以下引用》
「金大中(キム・デジュン)前大統領は23日、ソウル市内のホテルで開かれたガンマナイフ学会国際会議の特別演説で「6月下旬に実現する訪朝が南北交流協力や6カ国協議など朝鮮半島の平和協力体制の増進に役立つことを心から望んでいる」と強調した。金前大統領は、北朝鮮の核問題などが米朝関係の溝を広げているほか、6カ国協議も一進一退のこう着状態を繰り返していると指摘し、朝鮮半島情勢に対する懸念を示した。また、南北関係は2000年6月の共同宣言で大きく進展したが、米朝関係が解決しないことには統一問題の解決を期待することは難しいとした上で、北朝鮮は核計画を完全放棄し、それに対し米国も北朝鮮の安全を保障するとともに経済制裁を解除しなければならないと主張した」(5月23日韓国『連合通信』)《引用ここまで》
南北関係の進展は米朝関係の膠着で停滞してしまった、と分析し、南北の統一については、必ず統一すると強く信じていると答え、「太陽政策」がそれに最も適した最善の道だと国民も世界も支持していると思うと述べた、という。
北朝鮮という国は、いうまでもないがやっかいな国だ。なんといっても国の内実が間接的にしか伝わってこない。とはいっても、われわれが入手できる(信頼に足る)情報は、脱北者や亡命者がもたらしてくれる体験話によってだ。
「太陽政策」は閉ざされた関係に風穴を開け、対決から対話へ、という新しい関係を作ったという意味では、十分評価されるべきことである。その政策を引き継いだ「平和繁栄政策」もである。
しかし問題は、経済支援のように、いただくものはありがたくいただく、といったことでは微笑するが、肝心の核や人権、情報公開といった問題ではのらりくらりと焦点をはずしにかかる金正日政権のありようである。
だから、韓国では「譲歩するだけで、果実は何もないではないか」といった批判が高まる。そういう批判は「平和繁栄政策」にも向けられる。
今日が5回目となる連載『黄長はかく語りき』は、盧武鉉政権が進めるその「平和繁栄政策」についてである。
□平和繁栄政策
盧武鉉現大統領(注⑨)はその就任演説(2000年2月25日)で、金大中前政権が蒔いた〈太陽政策〉を受け継ぎ、発展させることを表明したが、改善しなければならない課題についても次のように強調した。
「最初に、すべての懸案は対話を通じて解決するようにする。2番目には相互信頼を優先し互恵主義を実践していく。3番目に、南北当事者原則に基づいて円滑な国際協力を追求する。4番目に、透明性を高め、国民の参加と超党的な協力を得ながら対北朝鮮政策を目指す・・・・」
ことさら改善点を強調しなければならなかったところに、〈太陽政策〉の実施をめぐってくすぶり続けてきた北朝鮮への送金疑惑や一方的に与えるだけ、といった不公平感に対しての反省を感じるところでもあるのだが、わずか4キロ幅の非武装地帯を挟んで敵対してきた南北2つの国家で成り立つ朝鮮半島が、平和裡に冷戦から抜け出るのに必要な選択肢は、実は限られてもいた。
韓国にすれば、ブッシュ大統領のようにテロリストだ、叩いてしまえ、というわけにはいかない事情がある。なにせ南北を隔てる有刺鉄線から50キロ南には人口1千万人に膨れあがった首都が控えているからだ。
盧武鉉政権が引き継いだ北朝鮮政策は〈平和繁栄政策〉と名付けられたが、基本的には北朝鮮の核開発は決して容認できないが、解決に当たっては対話による平和的方法を強調。いかなる形態であれ軍事的緊張が高まってはならない、と述べて、経済制裁や封じ込めなど北朝鮮への強硬策を取ることには反対する立場を明確に示したものだった。
ひとことで区切れば、日米とも協調しながら、北朝鮮とは平和共存を前提に南北当事者で平和と統一問題を解決していくというものだった。
おおやけの発言や行動を封じられたまま、半ば軟禁状態で2人の政権下の日々を過ごしてきた黄長氏の目には、金大中大統領の〈太陽政策〉、そして後任として誕生した盧武鉉大統領の〈平和繁栄政策〉はどう映ったのだろう。
私の手元には毎月送られてくる「脱北者同志会」の会報誌がある。切りつめた予算のなかから毎月脱北者に向けて発送される月刊雑誌だ。その名もずばり『脱北者たち』(注⑩)である。同会の名誉顧問を務める黄長氏は毎月この雑誌に巻頭言を書いている。以下は2003年7月号の巻頭言からの抜粋である。
〈平和共存主義者たちは北朝鮮の独裁体制との共存を主張することで、主要打撃対象である北朝鮮の独裁体制と妥協する根本的な戦略的過誤を犯している。政治闘争で最も重要な原則は、主要攻撃目標を明確に定め、そこにすべての攻撃の火力を集中させることだ。
朝鮮半島の平和を脅かす禍根も北朝鮮の首領独裁体制にあり、平和統一を妨害する基本的な障害物も首領独裁体制にある。そして韓国の民主主義体制を脅かす張本人が、首領独裁体制の代表者である首領であるということは明白だ。従って、朝鮮半島問題を終局的に解決させる基本戦略は、北朝鮮の首領絶対主義に基づく独裁体制を崩壊させることにあり、首領絶対主義体制こそすべての対北朝鮮事業において打撃の主要対象にならざるを得ない〉
つまり、黄長氏は〈太陽政策〉も〈平和繁栄政策〉も金正日政権と共存する、妥協する産物であり、そう主張する平和共存主義者たち、すなわち金大中前大統領も盧武鉉現大統領も根本的な間違いを犯している、というのである。なぜならば朝鮮半島の平和や南北の平和的統一を妨げているものこそ実は北朝鮮の金正日体制であり、その金正日は韓国の民主主義体制を脅かす張本人でもある、というのである。だから真に朝鮮半島の平和統一問題を解決するには金正日体制を崩壊させること以外にない、というのである。
なぜか。
〈北朝鮮にとってみれば、自分たちの独裁体制の維持を担保できるのなら平和的な共存に反対する理由はない。仮に、北朝鮮の統治者たちが韓国の平和的共存政策に反対すれば、それは侵略的な野望を自認することになる。そんなことをいい出す必要はない。いまのままの平和共存政策に依存するだけで、彼らは自らが望む統一戦線戦略を実現することもでき、経済援助を引き出すこともできるのだ〉
北朝鮮は〈太陽政策〉や〈平和繁栄政策〉が続く限り、その政策を積極的に支持し歓迎してさえいれば、経済援助ばかりか自らが望む方向に朝鮮半島の平和・統一問題を引っ張っていける、というのである。そして〈太陽政策〉や〈平和繁栄政策〉を支持する人々はだまされている、というのだ。
それはまたなぜか。
〈ひとつは北朝鮮の首領絶対主義の独裁体制がどれだけ非人間的なものかをよく知らず、北朝鮮の独裁統治者たちの侵攻を直接体験せず育った幸せな若者世代が多いという事情と関連している。このような若者世代を覚醒させるためには、1~2ヶ月間、北朝鮮に送り込んで、北朝鮮の生活を直接体験させることが最も効果的な方法だといえる〉
このパラグラフからは黄長氏の嘆く肉声が伝わってきそうだが、騙されているのは若者だけではない。朝鮮戦争による廃墟の上に血と汗を流して築き上げたいまの平和的な家庭や生活を維持したいと思っている世代も、戦争を避ける上で有利な政策に見えるならばなりふり構わず支持する傾向がある、というのだ。
ではどうすべきか。
〈歴史と民族の前で、私的な感情と偏見に囚われて絶対的な過誤を犯さないためには、自らの民族の運命を冷徹に考察することが必要である。今日、人類の歴史は民主化の道に沿って流れている。平和統一の道は歴史の流れに沿う民主化の道ではあるが、平和共存の道は歴史の流れに逆らう独裁者との共存を模索する危険な道だ、ということを肝に銘じなければいけない〉
〈太陽政策〉を否定し、〈平和繁栄政策〉を否定するこの巻頭言で展開された論文を読めば、金大中政権時代もその後も、なぜ情報機関が黄長氏を囲い込み外部との接触を遮断しようとしたかが透けて見えてくる。(以下第6回に続く)
(注⑨)盧武鉉大統領・・・2002年12月の大統領選で野党ハンナラ党の李会昌候補を大差で破り第16代大統領に就任。全斗煥の独裁政権時代には、学生や労働者など反独裁に立ち上がった活動家らを弁護した人権派弁護士でもある。選挙では若い有権者やインターネット世代の若者の支持を受けた。
(注⑩)『脱北者たち』・・・脱北者同志会が発行する月刊雑誌。最初(1999年)は『望郷』というタイトルだったが、2000年には『民族統一』、2002年に現在の名前に変わった。
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