ON HOME16

「なんですか？」

そっけなく答える。

相手にするのもつまらない。

ニヤニヤしながえら、こちらを見ている。

「うまいことやったなぁお前、あの秀才のモリアーティと

仲良くやっているんだって？

奴の研究とか、盗めたりすんの？」

とんでもない暴言を吐く。

「何をバカなことを」

思わず立ち上がる。

相手をにらむも、ひるむ様子は全くない。

自分の方がカッとなる。

「そんな事、する訳ないだろ。」

「どーだか。」

まわりからクスクスと笑い声が聞こえた。

やりとりをおもしろがっているらしい。

二人の様子を、興味津々でながめている。

相手も余裕の表情。

「もっぱら学校中では評判なんだぜ。

俺は全生徒を代表して聞いてるんだ。」

この男の話半分は誇張としても、周囲の反応をみる限りでは、

どうやら本当にそんな噂が広まっているらしい。

第３者が勝手な噂をするのはかまわない。

だけど、

もし、

この噂が彼の耳に入ったら？

この話を真に受けてしまったら？

そう考えただけで、その身が震える思いがした。

「失礼この上ないよ。」

顔をそむける。

なんて事を考えるのだろう。

頭の中は、この目の前にいる相手よりも、

モリアーティの事を考えていた。

学校中に広まっている話なら、いつ彼の耳に入っても、

おかしくないのではないか？

気が付くと、講堂をあとに走り出していた。

まわりの声など、もう気にならない。

ただまっすぐに彼のいる研究室へと向かう。

誰がどんなことを言ってもかまわない。

でも、

どうか、

彼の耳にだけは、届いていませんように。

そう祈りながら。