ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

対北制裁後の世界情勢

2017-09-13 15:02:33 | 日記
国連が北朝鮮制裁の決議を採択してから一夜が明けたきょう9月13日、
朝日新聞は特集を組んで、制裁後の世界情勢はどうなるのか、どうみるべ
きかというテーマの下、二つの見解を掲載している。一つは、古川勝久氏
(国連「北朝鮮制裁委員会」の元専門家パネル委員)によるもので、これ
には「米朝 外交交渉が打開の鍵」というタイトルが付けられている。

もう一つは、高原明生氏(東京大学教授、専門は現代中国政治、東アジア
国際関係)によるもので、これには「中国 対米関係を最重要視」という
タイトルが付けられている。

いずれも興味深い見解で、対北朝鮮問題を考えるうえで、大いに参考に
なった。両者の見解を抜書きし(これは文字通り抜書きであり、コピペで
はない)、この二つを総合すると、そこからどういう結論が出てくるの
か、ヘーゲル的・弁証法的な観点から、止揚( aufheben )の思考実験を
してみよう。

まずは古川勝久氏の見解。北朝鮮にとっても、アメリカにとっても外交交
渉がベストであり、両者ともこれをつよく望んでいるはずだ、というのが、
氏の見解の骨子である。古川氏はこんなふうにも述べている。
「米朝間の外交交渉が始まらない限り、事態を打開することはできないで
しょう。制裁は外交戦略のツールにすぎず、制裁だけで大量破壊兵器を放
棄させた例はありません。制裁と外交を組み合わせることで、初めて実効
性をもつようになります。
米国による武力行使の可能性は排除できません。まず外交を必死でやるは
ずですが、うまくいかなければ軍事しかない。外交が行き詰まったとき、
軍事オプションに移行するシナリオはつねに存在すると考えておくべきで
しょう。」

でも、どうなのだろう。北朝鮮とアメリカの両者が外交交渉を望んでいる
とすれば、にもかかわらず、その方向に事が進まないのはなぜなのか、阻
害要因は何なのか。それが分かれば、この阻害要因を取り除けばよい。そ
うすれば、八方塞がりの現状は打開できるはずだ、と思うのは、私だけで
はないだろう。しかし残念なことに、古川氏はこの点についてはふれてい
ない。

次は高原氏の見解。対北制裁のキープレイヤーになる中国は、対米関係を
最重要視している、というのが、高原氏の見立てである。高原氏はこんな
ふうに述べている。
「緩衝地帯だったはずの北朝鮮のせいで、中国の安全保障環境が著しく悪
化してしまったとしたら、むしろ韓国主導の朝鮮統一を推進し、地域の経
済統合が進んだほうが、中国にとって本当の意味での緩衝地帯ができるの
ではないか、という意見すらあります。
(中略)
忘れていけないポイントは、中国にとって対米関係が非常に重要だという
ことです。(中略)対米関係が「あらゆる安定の基礎」だと見ているので
す。だから、北朝鮮の核実験で、米中協力の必要性が高まり、米国との距
離が再び縮まっているのを歓迎するという声さえあります。」

さて、両氏のこのような見解をベースにすると、対北制裁決議のあとで、
世界情勢は今後、どのように推移すると予想できるのだろうか。

まずはアメリカである。アメリカは最初に、北朝鮮と外交交渉を始めるべ
く、「必至で」事に当たるだろう。むろん北朝鮮は、この申し出に易々と
は応じようとしない。アメリカに対するつよい反発と警戒心がある。主導
権をとられたくない、という思いもある。

そこでアメリカは、やむを得ず、中国に交渉の仲介役を頼むことになる。
中国が北朝鮮に影響力を行使できる国であり、しかも、中国がアメリカと
の関係を最重要視していることを、アメリカはよく知っている。アメリカ
は、中国が北朝鮮に緩衝地帯としての役割を期待しながらも、制御不能に
なりつつあるこの国に手を焼いていることも、よく知ってい。抜け目のな
いアメリカは、米中が協力して韓国主導の朝鮮統一を推進し、地域の経済
統合を進めようではないか、ーーそのほうが中国にとっても望ましいので
はないか、と中国首脳に提案するに違いない。中国首脳は、この提案を歓
迎し、南北統一のお膳立てとして、手始めに米朝交渉、南北交渉の環境整
備に向けて奔走することだろう。

ーーこれで一見落着と行くかどうかは、この交渉のプロセスを、ロシアが
どう見るかに掛かっている。明らかなのは、新たに出来つつある米中の協
力関係と、そのスキームの産物である統一朝鮮を、ロシアが自国にとって
の脅威とみなさないはずはない、ということである。あちらを立てればこ
ちらが立たずで、そうは問屋が卸さないということである。ロシアは種々
の妨害工作を仕掛けるだろう。うまく行きませんなあ。
コメント
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