トラウマ
2009-08-23 | 日記
僕は現在、歯の矯正をしているのだが、それも想い返せば2年という月日が経とうとしている。
始めた当初は金具の違和感と痛みとの戦いで、食事もままならない状態だった。
しかし流石にこれだけの年月が経過すると、それらの苦悩もすっかり薄まり、今では体の一部として定着しつつある。
そんな矯正生活なのだが、ここのところ同窓会などによって過去の友人に会う機会が多く、そんな久しぶりに会った友人などから「矯正する程でもなかったんじゃない?」と訊かれる事が多い。
確かに見た目だけで考えると、こんな大金を叩いてまで受けるほどの醜さではなかったと思う。
しかしこの矯正には、僕なりにいくつかの目的があるのだ。
まずは見た目。
これは良いに越した事はない。
しかし僕が最も治したかったのは、噛み合わせ。
僕は幼い頃から「歯ぎしり」が多く、歯の噛み合わせを治す事により改善されるかもしれない。
そしてもう一つ。
噛み合わせが良くなる事により、胃腸の働きが良くなるかもしれないという事だ。
僕は幼い頃から胃腸が弱く、ちびまる子ちゃんに出てくる山根君のように何かある毎にお腹が痛くなるという体質で、それにより常にお腹の具合を気遣いながら生活をしている。
そして、そんな体質からくる一つの苦い経験がトラウマとなり、未だに僕を苦しみ続けているのだ。
中学校3年生の時だったか、僕が初めて女子の家へと招かれた時だった。
両親は仕事で帰りが遅く、姉妹は親戚の家へ出掛けて不在。
誰が聞いても、大人の階段を登る最高のシチュエーションと云えるだろう。
そんな鼻血も飛び出す局面で、僕は鼻を突くほど香水を付け過ぎて2度もシャワーを浴びなければいけないくなるほど心が高揚しつつ、自転車に乗って彼女の家へ。
浮かれ気分で彼女宅に到着すると、家へ遊びに行くだけの約束にも関わらず、それまで観た事もないような渾身のオシャレで玄関前にたたずむ彼女。
これほど何かを予感させる場面は滅多にないだろう。
そして僕らはぎこちない笑顔で挨拶を交し、会話も少なく彼女の家へと入っていった。
誰も居ない彼女宅の玄関へ上がると、不自然なほど女性らしい動作をする彼女が僕の脱いだ靴を丁寧に整えている。
そして何故かそんな彼女の後ろ姿をかしこまって見つめる僕。
その光景は、まるで世界陸上の100m決勝に匹敵する程の緊張感に包まれていた。
彼女は僕を部屋へと誘導すると、コーヒーを入れる為にキッチンへ。
僕は誘導されて座ったベッドの隅から身動き一つせず、初めて入る女子の部屋をキョロキョロと見渡していた。
テレビもオーディオも無い彼女の部屋は、勉強する為の机と本棚、あとはベッドだけというシンプルな部屋で、時計の針の音だけがハッキリと聞こえる程に静まり返っている。
そして部屋へと戻ってきた彼女に、なぜかビックリする僕。
そんな固くなった自分に気付き我に返った僕は、とにかくその雰囲気を脱する為にと、意を結して世間話を始めた。
「き・・・昨日、バスケ部の伊藤がさぁー・・・」
その言葉をキッカケに僕らはどれだけ話しただろうか。
気付けば重苦しい雰囲気は消え去り、少し不自然ではあるものの和やかな空気に包まれていた。
そしてそのまま時間が経ち、会話が尽き始めた頃だった。
知らぬ間に縮まっている二人の距離。
会話の合間に訪れる沈黙。
額を流れる脂汗。
そう、僕はおなかが痛くなっていたのだ。
度重なるシャワーでお腹が冷えたのか、それともまだ飲み慣れていなかったコーヒーでお腹を下してしまったのか、とにかく僕のお腹が限界に達しようとしていたのである。
まだウブなチェリーボーイだった僕は、初めて訪れた彼女の家で「うんこがしたい」という一言が口に出来ず、必至で我慢する。
しかしその生理現象は、残酷なまでに僕へと襲いかかった。
僕は、一つの作戦を企てた。
“まるでオシッコへ行くかの如く振舞おう!”
「ごめん、少しだけトイレ借りていいかな・・・」
勇気を振り絞って口にした「トイレ」というワードに、彼女は特別なリアクションもなく、僕の心は少し救われた。
しかしその後、想定外な事実が僕を襲ったのだ。
うなずく彼女に案内されて行ったトイレは、あろうことか彼女の部屋の真横。
だからといって、そんな緊急事態に他の打開策など皆無だ。
僕は「音楽でも聞いててよ」と、無計画な言葉を発してトイレへ入り、急いでズボンを裾まで降ろして便座へと座ったのだった。
僕と彼女しかいない静まり返った彼女の家。
考えてみれば彼女の部屋にはテレビもオーディオもない。
恐ろしいほどの静寂が僕を襲う。
しかし僕のダムは決壊寸前だ。
もしそのダムを解放したら、轟音と共に大量のものが溢れ出すだろう。
当然そんな轟音、許される訳がない。
僕は全身全霊で全ての神経をダムへと集中させ、ゆっくりと開閉を繰り返す。
しかし強烈な腹痛とは裏腹に、少し緩める程度ではなかなか放水はされなかった。
そんな経過を考慮し、僕は少しずつ閉める力を緩めていく。
しかしまだ放水されない。
もう少し力を緩め、少し踏んばったその時だった。
「だっぽ~ん!!!!」
非情にもその轟音は、家中に響き渡った。
それと共に、僕の心も一緒になって放水される。
僕の目の前は、まるであの世の如く白い世界が広がったのだった。
少し心を落ち着かせてトイレから出た後、先程までとは打って変わった気まずさが二人の間には流れていた。
当然まだウブな彼女は「ちょっと~っ」などとツッコミを入れる程の器量もなく、やはり僕にもそのような空気を打開する程のテクニックなどは全く無かったのだ。
そんな恥ずかしさに耐えきれなくなった僕は、彼女の家を飛び出した。
そして涙で溢れる目頭を一生懸命拭いながら自転車を漕ぎ、家へと戻ったのだった。
それ以来、僕はデートの度にお腹の違和感を覚え、トイレへ駆け込む事が多々有る。
きっとあの時のトラウマが「デート」という言葉に反応してしまうのだろう。
しかしそんなトラウマも、この歯の矯正によって癒されるに違いない。
そう、噛み合わせを良くする事で、憧れの「強い胃腸」を手に入れるのだ。
強い胃腸。
いい言葉だ・・・
始めた当初は金具の違和感と痛みとの戦いで、食事もままならない状態だった。
しかし流石にこれだけの年月が経過すると、それらの苦悩もすっかり薄まり、今では体の一部として定着しつつある。
そんな矯正生活なのだが、ここのところ同窓会などによって過去の友人に会う機会が多く、そんな久しぶりに会った友人などから「矯正する程でもなかったんじゃない?」と訊かれる事が多い。
確かに見た目だけで考えると、こんな大金を叩いてまで受けるほどの醜さではなかったと思う。
しかしこの矯正には、僕なりにいくつかの目的があるのだ。
まずは見た目。
これは良いに越した事はない。
しかし僕が最も治したかったのは、噛み合わせ。
僕は幼い頃から「歯ぎしり」が多く、歯の噛み合わせを治す事により改善されるかもしれない。
そしてもう一つ。
噛み合わせが良くなる事により、胃腸の働きが良くなるかもしれないという事だ。
僕は幼い頃から胃腸が弱く、ちびまる子ちゃんに出てくる山根君のように何かある毎にお腹が痛くなるという体質で、それにより常にお腹の具合を気遣いながら生活をしている。
そして、そんな体質からくる一つの苦い経験がトラウマとなり、未だに僕を苦しみ続けているのだ。
中学校3年生の時だったか、僕が初めて女子の家へと招かれた時だった。
両親は仕事で帰りが遅く、姉妹は親戚の家へ出掛けて不在。
誰が聞いても、大人の階段を登る最高のシチュエーションと云えるだろう。
そんな鼻血も飛び出す局面で、僕は鼻を突くほど香水を付け過ぎて2度もシャワーを浴びなければいけないくなるほど心が高揚しつつ、自転車に乗って彼女の家へ。
浮かれ気分で彼女宅に到着すると、家へ遊びに行くだけの約束にも関わらず、それまで観た事もないような渾身のオシャレで玄関前にたたずむ彼女。
これほど何かを予感させる場面は滅多にないだろう。
そして僕らはぎこちない笑顔で挨拶を交し、会話も少なく彼女の家へと入っていった。
誰も居ない彼女宅の玄関へ上がると、不自然なほど女性らしい動作をする彼女が僕の脱いだ靴を丁寧に整えている。
そして何故かそんな彼女の後ろ姿をかしこまって見つめる僕。
その光景は、まるで世界陸上の100m決勝に匹敵する程の緊張感に包まれていた。
彼女は僕を部屋へと誘導すると、コーヒーを入れる為にキッチンへ。
僕は誘導されて座ったベッドの隅から身動き一つせず、初めて入る女子の部屋をキョロキョロと見渡していた。
テレビもオーディオも無い彼女の部屋は、勉強する為の机と本棚、あとはベッドだけというシンプルな部屋で、時計の針の音だけがハッキリと聞こえる程に静まり返っている。
そして部屋へと戻ってきた彼女に、なぜかビックリする僕。
そんな固くなった自分に気付き我に返った僕は、とにかくその雰囲気を脱する為にと、意を結して世間話を始めた。
「き・・・昨日、バスケ部の伊藤がさぁー・・・」
その言葉をキッカケに僕らはどれだけ話しただろうか。
気付けば重苦しい雰囲気は消え去り、少し不自然ではあるものの和やかな空気に包まれていた。
そしてそのまま時間が経ち、会話が尽き始めた頃だった。
知らぬ間に縮まっている二人の距離。
会話の合間に訪れる沈黙。
額を流れる脂汗。
そう、僕はおなかが痛くなっていたのだ。
度重なるシャワーでお腹が冷えたのか、それともまだ飲み慣れていなかったコーヒーでお腹を下してしまったのか、とにかく僕のお腹が限界に達しようとしていたのである。
まだウブなチェリーボーイだった僕は、初めて訪れた彼女の家で「うんこがしたい」という一言が口に出来ず、必至で我慢する。
しかしその生理現象は、残酷なまでに僕へと襲いかかった。
僕は、一つの作戦を企てた。
“まるでオシッコへ行くかの如く振舞おう!”
「ごめん、少しだけトイレ借りていいかな・・・」
勇気を振り絞って口にした「トイレ」というワードに、彼女は特別なリアクションもなく、僕の心は少し救われた。
しかしその後、想定外な事実が僕を襲ったのだ。
うなずく彼女に案内されて行ったトイレは、あろうことか彼女の部屋の真横。
だからといって、そんな緊急事態に他の打開策など皆無だ。
僕は「音楽でも聞いててよ」と、無計画な言葉を発してトイレへ入り、急いでズボンを裾まで降ろして便座へと座ったのだった。
僕と彼女しかいない静まり返った彼女の家。
考えてみれば彼女の部屋にはテレビもオーディオもない。
恐ろしいほどの静寂が僕を襲う。
しかし僕のダムは決壊寸前だ。
もしそのダムを解放したら、轟音と共に大量のものが溢れ出すだろう。
当然そんな轟音、許される訳がない。
僕は全身全霊で全ての神経をダムへと集中させ、ゆっくりと開閉を繰り返す。
しかし強烈な腹痛とは裏腹に、少し緩める程度ではなかなか放水はされなかった。
そんな経過を考慮し、僕は少しずつ閉める力を緩めていく。
しかしまだ放水されない。
もう少し力を緩め、少し踏んばったその時だった。
「だっぽ~ん!!!!」
非情にもその轟音は、家中に響き渡った。
それと共に、僕の心も一緒になって放水される。
僕の目の前は、まるであの世の如く白い世界が広がったのだった。
少し心を落ち着かせてトイレから出た後、先程までとは打って変わった気まずさが二人の間には流れていた。
当然まだウブな彼女は「ちょっと~っ」などとツッコミを入れる程の器量もなく、やはり僕にもそのような空気を打開する程のテクニックなどは全く無かったのだ。
そんな恥ずかしさに耐えきれなくなった僕は、彼女の家を飛び出した。
そして涙で溢れる目頭を一生懸命拭いながら自転車を漕ぎ、家へと戻ったのだった。
それ以来、僕はデートの度にお腹の違和感を覚え、トイレへ駆け込む事が多々有る。
きっとあの時のトラウマが「デート」という言葉に反応してしまうのだろう。
しかしそんなトラウマも、この歯の矯正によって癒されるに違いない。
そう、噛み合わせを良くする事で、憧れの「強い胃腸」を手に入れるのだ。
強い胃腸。
いい言葉だ・・・