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銀行の会計マジック再び -三菱UFJフィナンシャル・グループの繰延税金資産に思う

2006-04-28 | 事業再生・M&A
いつもご覧下さり、誠に有難うございます。

先日の日経に観測記事が出ていた
「三菱UFJフィナンシャル・グループによる繰延税金資産4,800億円の積み増し
(っていうか復活)」。
本日、プレスリリースが出ました。
http://www.mufg.jp/data/current/pressrelease-20060428-003.pdf

本日はこれおをネタにしましょう。

なぜ06/3期に4,800億円もの繰延税金資産が復活したのでしょうか?


それを考える前に、復活する前の状況がどうだったか、を確認する必要があります。

報道されていますように、今回復活する部分は旧UFJ銀行が不良債権処理のため
に巨額赤字を計上した際に、将来の回収可能性が低くなったとして繰延税金資産
(すなわち将来節約できる税金の見積もり額)を大幅に削減したときのもの。

旧UFJ銀行の06/3中間期末の繰延税金資産の状況(下記短信p.28)を
ご覧下さい。
http://www.mufg.jp/ir/fs/backnumber/2006mufg-half/pdffile/financial_info_ub0509.pdf
 繰延税金資産の内訳に、「繰越欠損金 9,831億円」
そしてその下に       「評価性引当金9,394億円」とあります。
税務上の繰越欠損金は将来の課税所得と通算して、結果として税金を減らすこと
ができる。このケースでは実に9,831億円も節約できる、としています。
しかし、将来、それなりの課税所得を稼ぐのは厳しい、としてほぼ全額に近い額を、
「評価性引当金」という形で自己否認しています。

その後、三菱とUFJとの合併等により、将来の課税所得の見通しが立ってきたので、
この評価性引当金を取り崩す=計上できる繰延税金資産が増えた、というわけです。

ここまでご覧頂いてお分かりのように、将来の見通し等でどうにでもなってしまう
性格があるんです。繰延税金資産というのは。


で、私が注目したのは、これの処理を06/3期の損益計算書で処理しなかったこと
です。 通常であれば、期末にかけての収益見通しの改善などを考慮しつつ、
次のような会計処理をすると思います。

 (借方)繰延税金資産 /(貸方)法人税等調整額

借方では、繰延税金資産を増加しております。これはおわかりでしょう。
一方、貸方では、法人税等調整額という会計上の税金費用を減額、
すなわち利益が増えるってわけです。
このため、当然、当期純利益もドカっと膨れ上がる。
これが通常考えられる処理です。


しかし、新聞報道によりますと、
  ・ 実力以上に利益が膨れ上がって投資家をミスリードしてしまう、
  ・ 利益として計上するとトヨタを抜き日本一となってしまい、儲けすぎ批判を
   浴びる、という判断が働いたようです。
そこで、どういう処理にしたのか?これがプレスリリースにありますように、
そもそも銀行合併時(今年1月)にさかのぼって、
旧UFJからの合併による承継額を4,800億円だけ上方修正する。
そうすれば、資本の部の1つである「資本準備金」として計上できる。
損益計算書を通さずに処理ができる!
ってことなんです。

    (借方)繰延税金資産 /(貸方)資本準備金

合併の段階でも繰延税金資産の復活の可能性はあったのにそれをやらず、
期末を過ぎた今、ここにきて、合併当時に戻って復活させる・・・・。
旧三菱による、旧UFJへのあてつけなのでしょうか?
「繰延税金資産が復活できるのは、三菱のおかげなんだぞ」と言わんばかりに。

この処理及び背景を見てますと、銀行のプライド、奥ゆかしさ、狡猾さ、強引さと
いったものが渾然一体となって(私には)伝わってきました。


それにしても、メガバンクってのは、合併・再編時にマジカルな会計手法を
よく使いますね。
三井住友とわかしおの逆さ合併、みずほFG統合時の含み損の処理・・・。

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1 コメント

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プロフェショナルですね (noten3)
2006-05-25 02:06:08
内容参考にさせていただきます。

テンプレートが同じだったので一瞬ビックリ。



これから財務に関する発信もしていきたいので、たまにトラックバックさせて下さい。

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