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消費税の「損税」に思う

2012-04-11 | 会計・株式・財務
ダイヤモンドオンラインの西沢和彦氏による論考「消費税率引き上げが医療崩壊を加速する!?」はなかなか興味深かった。

論旨は次の通り。
現行の消費税制において、医療機関に仕入税額控除が認められていないため、消費税率を引き上げると、医療機関の経営が打撃を受けるというパラドックスが生じる。これを防ぐには医療サービスを課税取引とし、医療機関に仕入税額控除を認めることである。


さっそく、日本医師会HP「社会保障・税一体改革素案」に対する日本医師会の見解(2012 年2 月1 日)で実情を見てみると・・・・・。

p.6より
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医療機関が負担している控除対象外消費税は、社会保険診療等に対して 2.22%に相当する税負担を負っていた。そのうち、設備投資から生じる部分が0.35%、医薬品や材料から生じる部分が1.12%、その他の仕入れや購入から生じる部分が0.74%である。また、一部の
医療機関では、設備投資により、極端に大きな消費税負担が生じている。これらの消費税負担に対する手当てとして、消費税導入時及び税率引上げ時に診療報酬に対して合わせて1.53%の上乗せがなされ、解決済みとされていた。

しかし、診療報酬への上乗せが不十分であるために、いわゆる損税が生じており、日本医師会は、その解決を求め、以下の税制要望を掲げている。
① 社会保険診療報酬等に対する消費税の非課税制度を、仕入税額控除が可能な課税制度に改め、かつ患者負担を増やさない制度に改善。
② 上記課税制度に改めるまでの緊急措置として、設備投資に係る仕入税額控除の特例措置創設。
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西沢氏によれば、税負担2.22%から診療報酬による埋め合わせ1.53%を除いた0.69%、金額にして約2,330億円が医療機関の持ち出し、「損税」となっているということだ。

日医総研ワーキングペーパー「第18 回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-平成23 年6 月実施-」の分析をざっと見ておりますと、損税の負担をこなしても医療機関の経営状況はまだ余裕があるように見られます。しかし、これでさらに消費税が引き上げられ、診療報酬等の調整が追いつかなくなると「損税」は拡大、確かに医療経営に打撃を与えることになるでしょう。
かと言って、「仕入税額控除が可能な課税制度に改め、かつ患者負担を増やさない」制度設計、本当にできるんでしょうか。ちょっとひっかりましたが。11日の日経では「健保組合で相次いで保険料率上げ」と民間の負担もかなりのところに来ている。ここに仮に消費税が乗ってくると今度は民間企業の業績にも影響を与えるかも知れません。
この問題は引き続き注視していきましょう。


さて、これで終わっては芸がありません。
「控除対象外消費税」に関しては税制改正で一つ留意すべき動きがあることを付け加えておきましょう。

4月1日以後に開始する課税期間から、課税売上高が5億円を超える事業者は95%ルールの適用対象外となりました。従来は、課税売上割合が95%以上の課税事業者については、課税仕入れ等に対する消費税額の全額を課税標準額に対する消費税額から控除できるものとされていましたが、改正後は課税仕入れ等に対する消費税額の全額の仕入税額控除は認められなくなりました。この改正により、課税仕入れ等に対する消費税額のうち一部控除できない消費税額が生じるため、仕入税額控除額が従来よりも少なくなる
要するに「損税」が発生・拡大するということです。

始まったばかりの新年度、思わぬ減益要因となる企業も出てくるかも知れませんので、これはと思う企業については影響を確認することも必要かもしれませんね。


なかのひと


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1 コメント

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日本の税制はおかしい (ミノル)
2012-04-11 08:22:13
消費税を導入する条件として、今の日本独特の税制になりました。そもそも税制は経団連の意向が強く、中小企業には目を向けていないのは明らかです。
消費税導入から24年も経ち、ほとんどの企業がコンピュータを使っている時代に、例えば簡易課税制度なんてナンセンスな制度が未だに生きています。
そろそろ消費税税制の抜本的な改革の時期にきているように思います。税率をあげる議論は、税制を勉強してからにしてもらいたいものです。
ちなみに、ダイヤモンドオンラインの記事は私も読みましたが、医療費は非課税ではなく免税にすべきだと思います。

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