心の音

日々感じたこと、思ったことなど、心の中で音を奏でたことや、心に残っている言葉等を書いてみたいと思います。

「心の出家」

2005-09-17 16:03:09 | Weblog
 元NHKの局長で、現在「メディア」「人間」「心」などをテーマに大学で研究を続けている立元幸治氏の「こころの出家」(筑摩書房)を読みました。
 立元氏は、次のように言っています。「人生のある時期まで私たちは上昇期の価値観を信じ、かつ支配的な時代精神のもとに、成長し、発達していく。しかし人生の転換期を迎えると、もうひとつの価値観、もうひとつの自分に直面せざるを得なくなる。それは衰退期というよりも、新しい自分の発見と創造の過程と見ることができる。さらなる充実の過程ということであり、人間としての全体性の回復の時期と見ることもできる。」
 ここで言う「もうひとつの価値観」を知るということは、「無意識の世界」に気づくことであるそうです。私たちは通常「意識の世界」に生きているが、それは心のほんの一部に過ぎず、「無意識の世界」があることに気づかねばならない。そうした無意識を含む心の全体像を認識することは、特に人生の後半期における重要な課題だそうです。
 ただし「無意識の世界」の発見とは、自分自身の心が、これまで意識してきた自分とは全く異なる、自分に敵対する、自分とは相容れないものであることの発見であり、これと対決することは厳しく、困難なことであると言います。
 しかしだからといって、回避するだけでは、問題の解決にはなりません。無意識の中に潜む暗いものは、生きている力であること、現在のわれわれの合理的世界秩序によって排除されたもろもろの力が存在していると筆者は言います。だから、無意識からのメッセージに耳を傾け意識と無意識の世界を統合することによって、私たちはより大きな安定した深い人格(自己)を確立し、新しい価値観、世界観を構築することができるそうです。筆者はそれを「もうひとつの自分の発見」と呼び、これまでの生き方や社会の在り方に批判的に対処することになり、それを「心の出家」と呼べるのではないかと提言しています。
 簡単に言うと、自分の狭い価値観からだけでなく、大所、高所から物事を見ることができるようになり、人生の幅が広くなり、豊かになるということになるということでしょう。自分の無意識の世界、すなわち「内なる声」に耳を傾けることの必要性を改めて感じさせる文章でした。