これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

食べ物の恨み

2008年05月01日 20時55分42秒 | エッセイ
 我が家は共働きなのだが、夫はよほど家事をしたくないらしい。休日になると、実に都合よく体調が悪くなる。
「頭が痛い」
「腰が痛い」
「気持ち悪い」
「お腹が痛い」
 様子を見ていると、どうも仮病ではなさそうだ。不登校の子供のように、掃除や洗濯をしたくないから、本当に体の具合が悪くなるのだろう。
 あの日も、腰痛を訴えて家でゴロゴロしていた。仕方なく、私が一人で掃除・洗濯・布団干し・娘の世話をする羽目になった。
 それなのに、夫は手伝うどころか寝坊して足を引っ張る。夫が起きてくるまで掃除も布団干しもできないから、彼がモタモタしていると困るのだ。9時ころ起きてこられると家事を終えるのが11時。娘を公園でたっぷり遊ばせたあと、昼食の買い出しから戻ったら午後1時を回っていた。
「あれ?」
 家を出るときにはなかったものが、玄関先に置いてあった。まだ水滴のついた寿司桶だ。私が孤軍奮闘しているにもかかわらず、ちょっと家を空けたすきに、夫は義母と寿司の出前を取って食べたのだ。隠すわけでもなく、堂々と置いてあるから余計に腹が立つ。
 お寿司! 私も食べたかったのに!
 我が家は二世帯住宅だ。連れ合いに先立たれた義母が1階で、私たち3人家族が2階で暮らしている。長男である夫は完璧なマザコンで、休日ともなれば妻や娘とではなく、母親と一緒に昼ごはんを食べることが多い。
「お昼はスパゲティにするけど、食べる?」
 出かける前に一応夫に聞いたとき、道理でいらないと答えたわけだ。
 元凶は夫に決まっている。
 義母は一見共犯に見えるが、ゴミ出しから娘のお守り、宅配便の受け取りなどを二つ返事で引き受けてくれる、とてもやさしい人だ。今までに義母が誰かの悪口を言ったことはないし、失敗した相手を責めることもしない。
 だから、私は夫だけが悪いのだと思っていたのだが……。
 それからひと月くらい経ったころだろうか。夏も終わり、南国の海のような青い空が広がった、気持ちのよい秋晴れの日だった。
 ちょっと風が強いけれども、たまの休みに布団を干さない手はない。掛け布団は布団挟みでしっかり留めたが、敷布団は大丈夫だと思い何もしなかった。
 夫は仕事に出かけていた。いつものように娘と公園から戻り、布団を裏返そうとしてベランダに出ると、どこかに違和感を感じた。
 ……あれ、どうして手すりに隙間があるんだろう……?
 狭いベランダは、布団で埋め尽くされていたはず。となると……。
 飛ばされたんだ!
 あわてて手すりから身を乗り出し、庭を見下ろした。あった、あった、折り紙を雑にたたんだような格好をして、夫の敷布団が無言でこちらを睨みつけていた。
 しかも、落ちた場所が悪かった。夫の敷布団は義母の物干し台を直撃し、バラバラ事件になっていた。竿は義母の服を巻きつけたまま、1メートルも吹っ飛び、草の上で意識を失っていた。石の足をつけた物干し台も、竿と並んでペチャンコにつぶされていた。
 申し訳ないとは感じたが、吹き出さずにはいられない。笑って笑って笑って、お腹がねじれてしまうのではないかと思った。どうして写真を撮っておかなかったのだろう。なにしろ、現場を見た義母までが爆笑したくらいなのだから。
 まるで、寿司の仇をとったようだった。
 
 
コメント (2)
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