これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

吾輩は猫又である

2008年05月06日 10時59分17秒 | エッセイ
『ハローキティ』には妙な魔力がある。
 ティーンエイジャーの頃、私は『ハローキティ』に取り憑かれていた。何が発端かわからないが、つぶらな瞳と小さな鼻がバランスよく配置された顔や、赤いリボンと6本のヒゲが、ほんの僅かでも視界に入ったとしよう。とたんに私の意識はすべてキティに集中してしまい、欲しくて仕方なくなる。
 当然、キティグッズをたくさん買った。ハンカチ、ティッシュ、ホチキス、ペンケース、下敷き、鉛筆、ぬいぐるみetc……。小遣いで買えるものには限界があったので、バッグなどの高額なものは誕生日プレゼントにしてもらった。
 それなのに、社会人になったと同時にキティからの呪縛が解けた。多分、スーツに似合わないキャラだから、正気に戻ったのだろう。
 私ったら、なぜこんな子供っぽいものを必死に集めていたのかしら。
 魔法が解けてしまうと、私はコレクションを処分し始めた。汚れたものや使い道のないものは容赦なく捨て、使えそうなものは引き出しの隅や物置に押し込めた。そして、すっかり忘れてしまったのだから、今から考えると相当ひどかったかもしれない。
 生き延びたキティたちは、突然の手の平を返したような仕打ちに驚きながらも、再び表舞台に返り咲くチャンスを伺っていたようだ。
 やがて、私は結婚し、娘が生まれた。
 ―あの子を洗脳するのよ―
 ―あたしたちの可愛さをわからせなくちゃ―
 ハイハイをするようになると、娘は自力で動いて片っ端から引き出しを開け、中を覗くようになる。しかし、そこは、出番を今か今かと心待ちにしていたキティたちの巣窟だった。
 ―さあ、あたしたちを見てごらん!―
 結果は言うまでもないだろう。娘は文房具や日用品をキティで揃えたがり、旅行をすれば必ずご当地キティを欲しがる。出費もばかにならないので、他に代用できるものがないかと考えていたら、タンスの奥や物置に眠っているグッズを思い出した。
 まずはハンカチを引っ張り出す。
「わあ、すごい。いっぱいあるね」
 華やかなフラワーキティではないけれども、たくさん見つかったので娘は上機嫌だった。鉛筆やハサミは小学生にちょうどいい。ミニチュア黒板やクリップなど、キティの生き残りを次々と掘り返した。
 ―この日が来るのを15年も待ったのよ―
 古びたキティたちが、そうささやいた気がした。



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コメント (2)
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