これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

マッチョなピーマン

2008年05月24日 22時14分15秒 | エッセイ
 その日の夕飯はチンジャオロースーに決めた。夫と娘の大好物だが、我が家の夕食は魚が中心なので、ここ何年も作っていなかった。
「やったー! 久しぶりだね。楽しみだあ!!」
 小学生の娘は、小躍りして喜んでいる。とはいっても、クックDoのチンジャオロースーの素に頼ったお手軽中華でしかないのだが、あれは結構イケるのだ。
 仕事の帰りに、スーパーで食材を買った。茹で筍、牛肉、チンジャオロースーの素、ピーマン……。ピーマンを買うのは久しぶりだ。多分、チンジャオロースーを作るときにしか買わないだろう。
 野菜売り場に行くと、何やら違和感を覚えた。袋入りのピーマンが、やけに細くて弱々しく見えたのだ。手に取ってみると、まるで病気の子供のようにフニャフニャしていて頼りない。
 ピーマンって、こんなだったっけ? なんか不味そう。他のないかなあ。
 辺りを見回すと、すぐ近くに静物画から抜け出したような、姿形の整ったピーマンが並んでいた。4個入りで、ラップの上からも艶やかな緑色が光っている。触れると肉厚でがっしりとしており、渡辺裕之のような筋肉質の逞しい男性を連想させた。
 あら、いいじゃない。
 私は迷わずそれを選び、会計を済ませた。
 働く主婦の夕食作りは戦場だ。炒めて和えるだけの料理でも、食材を切る手間はバカにならない。特に、ピーマンの種を取り出して細切りにする作業は時間がかかる。一心不乱に調理していたら、指先が熱くなってきた。しびれるような、ピリピリするような感覚がある。
 目尻にも、燃えているように熱を帯びた場所があり、不思議に思った。ピーマンを切っているとき、目尻がかゆくなって触れた箇所ではないか。どうしてこんなにジンジンするのだろう?
 チンジャオロースーが完成して、さらに謎が深まった。
「なにこれ、すごく辛~い!!」
 アツアツのチンジャオロースーは、いまだかつて味わったことのない激辛だったのだ! 一家団欒のはずの台所が一転して灼熱地獄と化し、夫と娘の悲鳴が轟いた。
 作った私は一向にわけがわからなかったが、じきに犯人に思い当たった。
 あのマッチョピーマンだ!
 ゴミ箱から外袋を拾い出すと、そこには『かぐらなんばん ピリ辛野菜』という文字が書かれていた。
 なんと……。
 私がピーマンだと思い込んで買ったものは、唐辛子の仲間だったらしい。ルックスばかりに気をとられ、袋の字を全然見ていなかったことが悔やまれる。
 これからは、ケイン・コスギや佐藤弘道のようなピーマンであっても、きちんと商品名を確かめなくてはいけない。



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コメント (2)
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