Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

八幡さんの杜

2013-05-25 | 

 

となりのトトロで、トトロの棲む森と少女が出会うシーンを思い出してほしい。

それ自体が生き物のように、もりもり天空に向かって盛り上がる葉を茂らせた巨大な樹。

あれは小山のように密生した葉叢を茂らせた樹々の集合体である鎮守の森の姿、そのものだった。

目線の低い子供にとっては尚更、それは大きなものに対する憧れと畏れを伴って…

 

 

照葉樹の森は、夏緑樹の森とは、ずいぶん印象が違う。

昼なお薄暗い照葉樹の森へ分け入ると、いっそ異界としての森を意識する。

鳥居という境界を越えて、禁忌の場所へ足を踏み入れるような、

記憶の古層が呼び覚まされるような不安定な意識のゆらぎ…

私たちの祖先もきっと、鬱蒼とした森に得たいの知れない畏れと、その裏返しである聖性を感じたのだろう。

 

植物生態学者、宮脇昭によると、

高木層、亜高木層、低木層と垂直的に棲み分けながら、多層群落の森を形成する照葉樹林は、

自然淘汰によって枯れた木も、林床の土壌生物群によってゆっくり分解され

無駄なものなど一切ない生態系のシステムであるという。

 

そういえば、明治神宮の杜を作るとき、

時の総理大臣、大隈重信は伊勢神宮や日光のような荘厳な杉・檜の景観を頭に描いていたらしい。

どうも日本には「松、杉、檜信仰」ともいえる裸子植物を有難がる傾向があるようだ。

当時、神宮の杜の造営を任されていたのが、林学博士の本多静六氏。

彼は火事や災害の多い東京では防災林としての照葉樹林が一番望ましいとしていた。

それを大隈重信は「藪のような雑木林など荘厳な神社にふさわしくない」とクレームをつけた。

見た目は良いが、単層林である杉・檜の森は災害に弱い。

本多静六博士による強い信念と辛抱強い説得によって、現在の明治神宮の杜は完成した。

宮脇昭は神宮の杜を、「先人が知恵を絞ってつくった人工の森の世界最高傑作のひとつである」と絶賛する。

 

以前から近くを通るたびに気になっていた、八幡さんの鎮守の森(杜)へ足を向けた。

スダジイやアラガシの大木や樹冠を毛細血管のように覆う密生した常緑の葉叢。

木洩れ日が網目模様のように堆く落ち葉の堆積した地面に射し、カシやシイの幼木やアオキの青々した葉っぱが日溜まりに浮かぶ。

切通しの向こうに明るい陽射しの別世界があった。

マメ科特有の甘いに香が鼻腔を擽る。

赤く熟れた果実も森の恵みか?

 

 


コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 森の力 / 宮脇昭 | トップ | 幽(かそ)けき森 »

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんばんは (いけぴー)
2013-05-25 19:45:41
ブナ・ミズナラ・カエデの森も好きですが、シイ・カシ林の日光が遮られた森も好きです。

宮脇昭先生の『木を植えよ!』を読んだことがあります。

日本の人口90%あまりが照葉樹林帯に住んでいるそうで、『鎮守の森』こそがその地域本来の植生であると言っておられました。杉や檜などの針葉樹ばかりの森は本来の姿ではないと改めて思いました。

済んでしまったことですが、鎮守の森の木は穢されないものと思っておりました。
風景写真の行き着いた先は「森」 (ランスケ)
2013-05-25 22:33:58
いけぴーさん、ありがとうございます。

震災以降、日本人の半数は思考停止状態にあるようです。
面倒なことは、もう考えたくない。見たくない。聞きたくない。
まぁ、そんな民意を反映するような近頃の政治家の発言です…

森は好いですね。
地球上唯一の生産者である植物と、それに依存する消費者である、その他すべての生物…
そして生命の多様性と共生の宇宙である森には、全てがあります。
物言わぬ圧倒的な風景と向き合っていると、
私は「生命の宇宙」である森に行き着きました。

そうですね。
常緑広葉樹林である鎮守の森は、ever green 永遠の緑。
それは穢れなきモノの象徴です(笑)
神前や仏前に常緑樹である榊や樒を供えるのも、そんな意味があるのでしょう。

美しい風景だけを求める風景写真コレクターには限界があります。
もっと向き合う自然の中から大事なもの、
かけがえのない何かを見い出すと、目の前に別の世界が広がってくると思います。

と、偉そうなことを言っても、私自身は、あいかわらず葛藤と逡巡の連続ですけど(汗)

何! (鬼城)
2013-05-26 16:43:31
ランスケさんの腕に掛かると写真が動き出す。八幡様の森・・・トトロ、大好きなアニメです。ワイド、魚眼・・・レンズの不思議・・・特に4枚目の写真は見たことがありません。花も生き生きとしていますね。
森が息づくためには一雨ほしいところです。まっ、梅雨が近いので、焦らなくても良いか。
サンクチュアリとしての森 (ランスケ)
2013-05-26 18:57:27
そうですよね、「となりのトトロ」は私たち日本人の琴線を刺激する郷愁の風景そのものでした。

特に子供の目線で見た、あの頃いたるところにあった闇や、もりもり巨大で異様な樹々が生い茂る神様の棲む場所に対する畏れと好奇心は、
私たちが、遠い昔に置き去りにしてしまった懐かしい感情だと思います。

宮崎駿は、見事にあの懐かしい感情と風景を再現してくれました。

それで松山市内で最も、その土地本来の植生が残っている森は何処か?と考えると、
市内中心部の松山城の森かもしれません。
あの城山の森は、それ自体が巨大な樹のように、もりもり盛り上がっています(笑)
サンクチュアリとして残された場所は、意外と身近に。

鬼城さんがブログで取り上げた宇和島城の森も、そうですよね。
外来種の花園 (ランスケ)
2013-05-27 09:18:37
八幡さんの杜を抜けた先、光の溢れる場所は、美しい花園でした。
甘い香りが周辺に満ち、青紫の花が爛漫と咲いていました。

御覧になるとよく判るように、この花は外来種の帰化植物です。
「ナヨクサフジ」と呼ばれる非常に繁殖力の強い植物。
この場所は、かつて蜜柑山だった果樹栽培放擲地です。

高速道の土手には、一面のシランの群生を見ました。
河川敷は、オオキンケイギクが咲き乱れる花園です。

でもそれを私は美しいと感じる。
無視するには、あまりに美しい百花繚乱の光景です。
ここは大陸の花園かと錯覚させられるような…

一度きっちり外来種の花園の風景を撮ってみたいと思います。
それは植物たちの生存をかけた生態系の最前線なのだから。

志村ふくみの世界 (ランスケ)
2013-05-28 10:10:18
昨夜のNHK、志村ふくみの世界は、素晴らしかった。

http://www.nhk.or.jp/professional/2013/0527/index.html

天然素材が持つ色の深みには溜息です…

私も深山の闇が、あえかな光の照射角度で見せてくれる藍から群青色の深みのある濃淡に魅せられています。
彼女のいうように、この色の濃淡は究極かもしれない。

やっと梅雨入り宣言です。
森が放つ、至高の色彩は雨の透過光です。
今週も森へ行ってきます。
本物の力 (ホッホ)
2013-05-28 22:10:57
志村ふくみの世界見逃しました。

美研1期生の野本久美さん「草木染」の作家です。
ご自分で山へいき、植物(草木)を集め煮て染めて織っています。
毎回、毎回微妙で繊細な色合いで二度と同じ色は出ないと言われていました。
30年の経験を積んだ野本久美さんが、今年の4月から1年間「染めと織り」の技術を深める為志村ふくみさんの「アルスシムラ」芸術学校で学ぶの記事があったので貼り付けました。
http://shizenhakobonaruta.blogspot.jp/2013/02/blog-post_25.html


2年に1回の松山美術研究所展には毎回出品されてます。興味あるかたは次の展覧会観に来てください。


びっくり!! (ランスケ)
2013-05-28 23:33:52
へぇ~知らなかった。
私たちの先輩に、そんな人がいたなんて。

志村ふくみさんは、今まで何度もTVや雑誌で取り上げられてきたので知っていましたが、
改めて観ると、心惹かれるよね。

自然が、その時その時に発する色は一期一会だと思う。
あの一瞬の色を再現したくて何度も森や山へ通っています。

でも、ほとんど不可能だよね…
あの記憶の中の残像は、その時々の色んな情報やフィルターがかかっているから。

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事