ついに「パリ、テキサス」を超える映画に出会った。
2000年公開の中米合作映画、チャン・イーモウ監督の「初恋のきた道」(我的父親母親)The Road home。
もう、その導入部のモノクロームの映像から惹き込まれた。
そして、それは父母の若き日の肖像写真を手に取った瞬間から
目を奪う鮮やかな黄金色の秋の輝きへとフェードインしてゆく。
映像の詩人と云われるチャン・イーモウ監督の至極の映像詩。
物語は、父の訃報を聞いて故郷の村へ帰る主人公のモノローグから始まる。
そして現在の部分がすべてモノクロームの映像で撮られ、
父母の馴れ初めを回想する過去のシーンが鮮やかなカラー映像で描かれている。
この素朴で一途な恋情に打たれる。
今の世の中だと完全にストーカー扱いされる盲目的な恋情だろう(苦笑)
それを、このチャン・ツィイーという愛らしい瞳の少女を起用したことで、
その少女を黄金色の秋や純白の冬の、目も眩むような美しい風景のなかに立たせることで、
絵画的な美しい映像詩にまで昇華させている。
私は、一途な愛に弱い(笑)
「グラン・モーヌ」(邦題、さすらいの青春)やナスターシャ・キンスキーの「マリアの恋人」の
美しい映像と一途な愛の物語に魅かれる。
「パリ、テキサス」も失踪した妻、そして手放した息子への一途な愛を巡る物語だった。
「初恋のきた道」では父母の素朴な愛の物語だけではなく
生涯、辺境の村で教員を務めた父親の葬儀に駆けつける教え子たちの師弟愛、
街で倒れた夫の遺骸を古来からの風習通り、徒歩で担いで見送りたいと熱望する残された妻の気持ち(その夫婦愛)
そしてラストシーンで、父が生涯立ち続けた教壇に再び立ち、父母の想いに応える主人公の家族愛。
そのひとつひとつのシーンに涙なしでは観られない…
真っ暗なダークサイドの奈落の底に一条の光が射した(笑)
そんな心洗われる愛の物語でした。
レンタルしてから2度目の鑑賞です。
それにしても、この映像は凄い。
完璧なライティング…屋内のシーン(レンブラントの絵画みたい)は勿論、
野外の撮影も、ほとんど午後や午前の斜光線で撮られ目も眩むような映像だ。
映画史に残るテレンス・マリックの「天国の日々」の
マジックアワー映像より凄いかもしれない。
そして壊れた機織りや瀬戸物を直す手仕事の確かさ…
このシーンも、この映画の見せ所だ。
プレゼントされた髪留めを失くし、必死で探し求めるシーンも。
エンドロールで流れる音楽も美しい。
映画とは総合芸術だということを実感した至極の映像詩でした。
とにかく何をするにも粘りが大事だと最近思う次第です。
秋の特別展に向けて、ずいぶん無理をされたのではないかと心配しています。
どうぞ御自愛ください。
チャン・イーモウ、そんなに好きな監督ではなかったのですが、
この作品には目を見張りました。
自然光は、光の当たり方、観る角度で対象物が、
まったく異なってみえてきます。
この「初恋のきた道」は、光をどう捉えるかのお手本のような
映画だと思います。
ぜひ、何度も繰り返し御覧になってください。
写真撮影の上達に、きっと繋がると思います。
それよりも、この映画は人を想う心の純粋さに打たれます。
あんな素朴な感情は、私たち日本人が遠い昔に置き去りにしてしまった
懐かしい土の香りのようなものだと思いました。